2015年4月13日月曜日

行政庁が違法な状態を作り出した場合に、行政庁は原状を回復させる義務を負う


---行政訴訟に関する外国法制調査結果-ドイツ(山本助教授説明資料)
B 訴えの利益の消滅
24 行政庁が違法な状態を作り出した場合に、行政庁は原状を回復させる義務を負い、 違法状態により権利を侵害される私人は、原状回復を求める「結果除去請求権」を有する。 ドイツで既に確立した考え方である。請求権の根拠として、様々な一般法理が説かれているが、現在では基本権と解する説が有力である。結果除去請求権の教科書事例として、建築許可処分取消判決を得た原告は行政庁に、建築主に対して建築物の除却等の措置をとるよう求めることができる、という例が挙げられている。つまり、建築許可を判決により取り消すことは、建築が完了した後も、少なくとも除却命令権限の発動に関する裁量権の行使を制約するという、法的意味を有する。したがって、14 判決の元になった最判昭和 59• 10•26 民集 38 巻 10 号 1169 頁の事例でも、14 事件でも、訴えの利益は肯定されることになろう。
25 行政裁判所法 113 条 1 項は、「行政行為が既に取消しや他の事情により消滅した場合、裁判所は、行政行為が違法であったことを、原告がこうした確認について正当な利益を有する場合に、申立てに基づき判決によって宣言する」と定める(「継続確認訴訟」)。「正当な利益」が肯定されるのは、次のような場合である(26、27)。
26 「人間の尊厳」や「人格権侵害」を「回復する利益」は即、違法性確認の訴えの利益を基礎づける。例えば、身柄拘束、通信傍受、家宅捜索、教科書の使用決定に対する親の取消請求(親の教育権、子どもの人格権に関わる)等。また、個々の事案における行政行為の理由や行政行為前後の状況から判断して、「差別」、「名誉」や職業生活に必要な信頼の失墜等が認められる場合も、訴えの利益が肯定される。衛生上の理由によるサラダの販売禁止の事例では、訴えの利益が肯定されたが、営業許可の撤回後、原告が営業を止めた事例では、 訴えの利益が否定された。行政行為が原告のキャリア形成に影響する場合も、訴えの利益が認められる。例えば、原級留置。しかし日本の 12 事件は、センシティヴな権利に関わる事案ではなく、具体的な利益侵害の状態が存続していたという事情も見受けられない。 したがってドイツでも訴えの利益は否定されるものと思われる。
27 「基本的に事実•法状態が変わらなければ同種の行政行為がなされる、十分に特定された危険」がある場合、訴えの利益が肯定される。後続処分ないし後続措置がある場合はもちろん、「争いになった法問題が手続当事者に、別の関連において同じ態様で新たに生じる」相当の蓋然性があれば、訴えの利益は基礎づけられる。つまり、違法確認判決の既判力が及ぶという厳密な意味で同じ処分が繰り返される蓋然性は要求されず、「行政庁は裁判所の「自然の権威」を、比較し得る状況において尊重する、という期待で十分である」。
IV 仮の権利保護
28 行政裁判所法は仮の権利保護について、執行停止(80 条以下)と仮命令(123 条)の制度を定めている。なお、規範統制訴訟についても仮命令の制度を設けている(47 条 6 項)。 執行停止制度が行政行為の取消訴訟の場合に関する特別法、仮命令制度が他の場合を全て捕捉する一般法であり(123 条 5 項)、両者により空隙なき仮の権利保護が確保される。
29 行政裁判所法 80 条 1 項は執行停止原則をとる。但し、公課および公の費用の賦課徴収、警察執行官吏による延期不能な命令および措置に関しては、執行不停止が原則となる他、近年、「政治的衝撃力のある分野」で、執行停止原則の例外を定める個別法律が増えている(建築監督上の建築許可に対する第三者の取消訴訟、交通網整備に関する計画確定決定等)。
30 仮命令は、民事訴訟法に対応する形で、現状維持のための保全命令(123 条 1 項 1 文)と、現状を変えるための規律命令(2 文)に分けられる(仮差押は規定されていない)。保全命令は、行政行為の性格を持たない侵害行為の不作為を求める場合、例外的に行政行為の予防的不作為を求める場合、第三者私人が現状を変えようとしている状況において反対利害関係者が行政庁に措置(建築停止命令等)を求める場合、金銭債権の保全措置を求める場合などに認められる。規律命令は、行政行為の義務づけ、その他の作為に当たる給付を求める場合(仮の建築許可、仮進級、飲食店の近隣住民からの申立てによる仮の閉店時間延長、 閉店時間が遵守されるための監視、官吏を元のポストに就けること、公的主体による建築工事の停止、公報の停止と撤回等)、法律関係の仮の確認を求める場合(裁判官が業務配分計画に当面従う義務のないことの確認等)などに認められる。要するに、各訴訟類型に対応する形態の仮命令が、基本的に全て許容される。
31 連邦憲法裁判所から見ても、日本の行訴法 25 条 1 項のように執行不停止原則をとることは合憲と言えよう。ドイツの執行停止原則は、むしろヨーロッパ法との抵触を来たしている。しかし、仮命令を制度化していない日本法の状態について、連邦憲法裁判所であれば憲法違反と判断するであろう。ヨーロッパ法を執行する国であればやはり、仮命令制度を設ける必要がある。「執行停止は、行政権の作用の一環とみるべきで、司法権本来の作用である裁判とは異なる手続および思考過程によって行なわれる」との考え方は、ドイツでは一般に見られない。逆に立法および判例は、仮の権利保護に関する要件の判断および内容の決定について、裁判所の「裁量」を認める。もっとも判例は、本案を先取りする仮命令、および行政庁の裁量処分に関する、本案判決に可能な内容を超える仮命令が禁止されるという原則を立てる。しかし、基本法 19 条 4 項による実効的な権利保護の要請に基づき、例外の認められることが稀でない。

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