転載
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ドイツ行政裁判所視察シェア弁護士は、甲が身柄を拘束されたその日に相談を受けるや、その日のうちに国外退去の差止と滞在許可を求める仮命令の申立をした。ところが、同日、ハンブルグ行政地裁はこれを却下した。これに対し、シェア弁護士はその日のうちに抗告する。ところが、同月25日、ハンブルグ行政高裁は抗告を却下した。ドイツ行政裁判所法では仮命令事件については上告は認められていない。そこで、翌26日、シェア弁護士は連邦憲法裁判所に対して、憲法違反を理由に憲法異議を申し立てた。それに応じて、連邦憲法裁判所は、8月10日、憲法異議を認め、事件をハンブルグ行政高裁に差し戻した。そして、同高裁は、同月16日、甲の申請を認めるに至った。連邦憲法裁判所の決定理由は、「外国人がドイツ国籍の子を認知した場合は、その子とはドイツ国内でしか同居できない。移民政策がいかに重要であろうと、家族を守るという国家の義務が常に優先される」という極めて常識的なものであった。甲が身柄拘束されてから釈放されるまで、わずか1月たらずであった。
わが国行政訴訟の実態を知らない読者は、このシェア弁護士の事例は極めて常識的なものであり、何をそんなに驚くことがあるのか、と思うことだろう。しかし、わが国の行政訴訟の実態を知っている読者は、きっと驚愕されることだろう。
わが国では、まず、行政処分の執行の停止を求める裁判は制度として認められているものの、一時的に行政処分の発令を求める(たとえば、外務大臣に対して滞在許可することを求める)制度は設けられていない。通常の民事訴訟であれば、仮の地位を定める仮処分(たとえば、事業主から解雇された従業員について従業員の地位にあることを確認する仮処分)は認められているのに、相手方が行政になったとたんに、このような仮処分(ドイツではこれを仮命令という)は認められない。このような仮命令を認めると、裁判所が行政の第一次的判断権を侵害し、三権分立に反するからというのがその理由だが、理由になっていない。それでは、ドイツでは三権分立違反だとでも言うのであろうか。裁判所が行政に命令をしないのが三権分立だという言い方もできれば、逆に裁判所が行政に対して法に従って命令を発することこそが行政に対する裁判所のチェック機能の行使であり、三権分立に資するのだと言うこともできるだろう。
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