2014年2月11日火曜日

まともな裁判民を増やそう: 横尾和子、泉徳治、田原睦夫のような

● 平成18(行ツ)176 選挙無効請求事件 判決

衆議院小選挙区選出議員の選挙において候補者届出政党に政見放送その他の選挙運動を認める公職選挙法の規定は,候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に選挙運動の上で差異を生ずるものであり,憲法14条1項に違反する。

公職選挙法150条1項の規定は憲法に違反する。


そもそも、「選挙制度を政策本位,政党本位とする立法目的」 とは、どこに法的根拠があるのでしょうか。公職選挙法にはそのような規定はありません。

事情判決の法理というのは腰拔け裁判です。無効にしなければ裁判所の存在価値がありません。
憲法違反の選挙制度によって当選した議員、市長というのは正当性がありません。正当性のない議員、市長が法律条例をつくるわけですから恐ろしいことです。
直ちに違憲とされた選挙法の規定を無効にして、再選挙すればよいだけです。

泉徳治判事の言っていることがもっともなのです。

「議会制民主主義の過程自体にゆがみがある場合,ゆがみを抱えたままのシステムによって是正が図られることを期待するの は困難であるから,そのゆがみを取り除き,正常な民主政の過程を回復するのは, 司法の役割であり,司法の出番なのである。」


違憲判決のできる裁判官
裁判官 横尾和子
裁判官 泉徳治
裁判官 田原睦夫

彈劾すべき裁判官
裁判長裁判官 島田仁郎  ☓
裁判官 上田豊三  ☓
裁判官 藤田宙靖  ☓
裁判官 甲斐中辰夫  ☓
裁判官 才口千晴  ☓
裁判官 津野修  ☓
裁判官 今井功  ☓
裁判官 中川了滋  ☓
裁判官 堀籠幸男  ☓
裁判官 古田佑紀  ☓
裁判官 那須弘平  ☓
裁判官 涌井紀夫  ☓
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裁判官横尾和子の反対意見は,次のとおりである。

2 政見放送を,候補者届出政党にのみ認め,これに所属しない候補者に認めな いとする公職選挙法150条1項の規定は憲法に違反する。その理由は,以下のと おりである。
(1) 政見放送を候補者届出政党にのみ認めることは,候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に単なる程度の違いを超える差異をもた らすものであることは原審も認めるとおり明らかである。
この差異は,候補者届出政党とされるための要件が既成政党等にのみ有利である ことを考慮すれば,選挙制度を政策本位,政党本位とする立法目的によって合理性 が得られるものではない。
すなわち,公職選挙法150条1項の規定は,既存の,かつ,一定規模以上の政 党間の政策論争に限定すれば,各党の政策を放送という影響力のある媒体を通じ明 らかにすることにより政策本位の選挙の実現に資するという一面は認められる。し かしながら,この規定は,国会議員5人未満の政党等とその所属する候補者及び政 党等に所属しない候補者の政見を表明する機会を制限することとなり,また,既存 の政党間の政策論争では採り上げられなかった政策課題や直近の国政選挙時では争 点とはならなかったが,にわかに浮上した政策課題について候補者届出政党に所属 しない候補者が政見を表明する機会を著しく制限するものであり,また,国民は, そのような政策に関する政見に接する機会を制限されることにもなる。
したがって,公職選挙法の上記規定は,政策本位,政党本位という立法目的にか えって反するものと解される。
(2) 政見放送について差異を設けた根拠の一つに,すべての候補者個人に政見 放送の機会を与えることによるテレビ局等の負担が挙げられている。
 これに関する現行の定めは,放送1回につき9分以内,また所属する候補者が9 ないし11人の場合はNHKテレビ,ラジオ及び民放を合わせて18回とされてい る。
このような定めを改め,放送1回当たりの時間の短縮,放送回数の縮減,放送時 間帯の工夫等をして対応する可能性が全く否定されるものではなく,さらに,ほと んどの県でテレビ放送の3ないし4波体制が確立していることからすれば,テレビ 局の負担を理由として政見放送に係る差異を設けたことに合理性があるともいえな い。
(3) なお,本件選挙においては,郵政民営化法案の是非が大きな争点となった が,33の選挙区で郵政民営化法案に反対する自民党議員に公認が行われなかっ た。公認されなかった議員のうち国民新党,新党日本を結成し,候補者届出政党所 属議員としての地位を確保した者もいたが,無所属議員が平成17年9月21日特 別国会召集時点で17名であった。
このように,特に,本件選挙においては,候補者届出政党に所属しない候補者に 政見放送を認めないことが,国民が候補者間の政策の相異を理解し,政策本位の選 挙を実施することの妨げになった可能性があったことを付言する。
3 なお,上述の1及び2のいずれについても事情判決の法理を適用して選挙の 違法を宣言するにとどめるべきものと考える。


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裁判官泉徳治の反対意見は,次のとおりである。 

本件区割規定は,選挙権平等の原則に違背し,憲法に違反する。また,公職選挙法が,小選挙区選挙の候補者のうち,候補者届出政党に所属する者と,これに所属 しない者との間に設けた選挙運動上の差別は,選挙人が候補者の適性,政見等に関する情報を均等に得て,選挙権を適切に行使することを妨げるものであるから,憲 法に違反する。本件選挙の小選挙区選挙は,違法である。原判決を変更し,事情判 決の法理により請求を棄却するとともに,主文において本件選挙の各上告人が居住 する選挙区における選挙が違法である旨の宣言をするのが相当である。

選挙運動の自由平等について
(1) 我が国の憲法が採用する議会制民主主義は,選挙人が,選挙権を行使する 際の判断材料である候補者の人物,識見,政見等に関する情報を自由かつ均等に取 得して,選挙権を適切に行使することができることを前提としている。憲法は,こ の民主政の過程を支えるため,選挙権の保障と並んで,集会,結社及び言論,出版 その他の表現の自由を保障している。民主主義的な自己統治の実現のためには,表 現の自由の保障が欠かせないのである。そして,選挙人が候補者に関する適切な情 報を取得するためには,候補者に自由かつ平等な選挙運動が保障されている必要が ある。候補者が行うことができる選挙運動の方法及び量について,候補者間に差別 を設けることは,選挙人が,候補者に関する情報を自由かつ均等に取得し,選挙権 を適切に行使することを妨げるものであり,選挙人の憲法21条1項で保障された 知る権利,憲法15条1項及び3項で保障された選挙権を阻害し,議会制民主主義 の原理に反することになるから,上記差別の合憲性については,先に述べた投票価 値の差別の場合と同様に,厳格に審査する必要がある。
(2) 公職選挙法は,小選挙区選挙について,各候補者個人に対し,選挙事務 所,自動車・船舶・拡声器,通常葉書,ビラ,ポスター及び新聞広告で選挙運動を 行うことを平等に認めるとともに,これに量的制限を加えている。そして,公職選 挙法は,候補者届出政党に対し,その届出に係る候補者(以下「政党届出候補者」 という。)個人とは別に,上記の手段による選挙運動を行うことを認めるほか,候 補者個人には禁止されている政見放送を行うことを認め,これらの運動手段におい て政党届出候補者のための選挙運動を行うことも認めている。しかも,候補者届出政党に認められた選挙運動のうち,新聞広告及び政見放送は,国がその費用を負担 するもので,無料である。政党届出候補者のために行うことができる選挙運動と, 本人が届け出た候補者(以下「本人届出候補者」という。)のために行うことので きる選挙運動との間には,手段及び量において,上記のように差別が設けられてい るのである。
公職選挙法が設けた上記差別のうちの量的部分につき,その程度を具体的にみる こととする。小選挙区選挙において,候補者届出政党が1つの都道府県で1人の候 補者を届け出た場合,候補者届出政党が当該都道府県において行う選挙運動は,当 該政党届出候補者のための選挙運動といえるから,当該政党届出候補者のために行 うことのできる選挙運動の量は,当該政党届出候補者が個人として行うことのでき る選挙運動の量に,候補者届出政党が行うことのできる選挙運動の量を加えたもの ということができる。この例によると,当該政党届出候補者のために行うことので きる選挙運動の量(大きさに数を乗じたもの)は,本人届出候補者のために行うこ とのできる選挙運動の量に比して,選挙事務所で2倍,自動車・船舶・拡声器で2 倍,通常葉書で1.57倍,ビラで2.14倍,ポスターで9.61倍(東京都第 12区のポスター掲示場470を例に計算),新聞広告で2.60倍となる。そし て,本人届出候補者のために行うことが禁止されながら,当該政党届出候補者のた めには行うことが認められている政見放送は,テレビジョン放送及びラジオ放送を 通じて1回当たり9分の4回である。
(3) 公職選挙法が,小選挙区選挙における選挙運動につき,上記のような差別 を設けた立法目的について,政府の立法担当者は,衆議院議員の選挙制度を政策本 位,政党本位のものにするためと説明している。選挙制度を政策本位,政党本位のものとするとの立法目的自体は,一応の合理性を有するということができよう。 (4) 公職選挙法は,上記の立法目的達成の手段として,候補者個人のほか,候
補者届出政党が一定の選挙運動を行うことができるものとした。候補者届出政党と は,「当該政党その他の政治団体に所属する衆議院議員又は参議院議員を5人以上 有すること。」又は「直近において行われた衆議院議員の総選挙における小選挙区 選出議員の選挙若しくは比例代表選出議員の選挙又は参議院議員の通常選挙におけ る比例代表選出議員の選挙若しくは選挙区選出議員の選挙における当該政党その他 の政治団体の得票総数が当該選挙における有効投票の総数の100分の2以上であ ること。」のいずれかに該当する政党その他の政治団体である(同法86条1 項)。すなわち,同法の候補者届出政党は,過去の選挙で実績を上げた政党その他 の政治団体に限定され,小政党や新興の政治団体を除外したものとなっている。
平成6年法律第2号による改正前の公職選挙法は,過去の選挙の結果とは無関係 に,確認団体及び推薦団体による選挙運動を認めていた。すなわち,当該総選挙に おいて全国を通じ25人以上の所属候補者を有する政党その他の政治団体は,確認 団体として選挙運動を行うことができた。また,衆議院議員の選挙において,確認 団体の所属候補者以外の候補者を推薦し,又は支持する政党その他の政治団体は, 推薦団体として選挙運動のための推薦演説会を開催し,その開催に付随する文書図 画を掲示することができた。しかし,衆議院議員の選挙については,この確認団体 及び推薦団体による選挙運動の制度は廃止され,過去の選挙で実績を上げた候補者 届出政党のみが,候補者個人とは別に選挙運動を行うことができるようにされたの である。
その上,候補者届出政党は,政党助成法に基づき政党交付金の交付を受けている政党とほぼ重なるのである。政党交付金は,選挙運動にも使用することができるも のであり,平成17年分の総額が317億3100万円に上り,大政党になるほど 配分額が多くなるものである。公職選挙法が,候補者届出政党に限って,候補者個 人とは別個に選挙運動を行うことを認めることは,政党交付金により助成されてい る既成政党,特に大政党を選挙で有利に導き,その勢力維持,更には勢力拡大を助 ける一方,小政党や新しい政治団体の発展可能性を阻害するものである。議会制民 主主義の下では,国家はどの政治団体とも等距離を保つべきであり,国民が選挙に 参加する各政治団体を正しく判断し,その政治的意見を正確に国会に反映させて, 国政の方向転換を図ることも可能となるような選挙制度を構築することが要請され る。
公職選挙法は,既成政党に所属しない者が新たに政治団体を結成しても,その政 治団体には選挙運動を行うことを認めないのであるから,選挙制度を政策本位,政 党本位のものとするとの立法目的を掲げながら,実際に作られたのは,既成政党の 政策本位,既成政党本位の選挙制度である。
公職選挙法が,過去の選挙の結果のみを基準に,既成政党に限って,候補者個人 とは別個に選挙運動を行うことを認めることは,選挙のスタートラインから既成政 党を優位に立たせ,本人届出候補者を極めて不利な条件の下で競争させるもので, 議会制民主主義の原理に反し,国民の知る権利と選挙権の適切な行使を妨げるもの として,憲法に違反するといわざるを得ない。
(5) また,公職選挙法は,上記のとおり,候補者届出政党に対し,候補者個人 とは別個に選挙運動を認めることにより,政党届出候補者のために行うことのでき る選挙運動と本人届出候補者のために行うことのできる選挙運動との間に,質量ともに大きな差別を設けている。中でも,新聞広告及び政見放送における差別は,国 の費用負担で行われる公的給付における差別という性質を有し,政見放送に至って は,候補者届出政党にのみ認め,本人届出候補者には禁止するという質的な差別で ある。新聞広告並びにテレビジョン放送及びラジオ放送は,今日,選挙運動の手段 として極めて重要な地位を占めており,選挙人にとっても候補者に関する情報を得 るための主要な手段となっていることを考えると,この点に関する差別は軽視する ことの許されない問題である。一方,政党届出候補者及び本人届出候補者の双方に ついて,新聞広告及び政見放送による政見発表の機会を実質的に均等に与えること は,さほど困難なことではない。
選挙運動について,上記のような大きな差別を設けなければ,政党本位,政策本 位の選挙という目的が達成できないとは認め難く,公職選挙法が政党届出候補者と 本人届出候補者との間に設けた差別は,前記の立法目的の達成のため是非とも必要 な最小限度のものということはできず,選挙人の候補者に関する情報の取得と,候 補者に関する均等な情報に基づく適切な選挙権の行使を過度に妨げるものであり, 議会制民主主義の原理に反し,国民の知る権利と選挙権の適切な行使を妨げるもの として,憲法に違反するものといわざるを得ない。
(6) したがって,選挙運動について既成政党のみを優遇し,政党届出候補者を 過度に有利に扱う公職選挙法は,憲法に違反するものであり,各上告人が居住する 選挙区における本件選挙は,この点においても違法である。

国会に広い裁量を認めることの可否について
(1) 国民が,平等な選挙権を有し,正確な情報を得て,代表者の投票を通じ, その政治的意見を国会に反映させるという議会制民主主義の過程自体にゆがみがある場合,ゆがみを抱えたままのシステムによって是正が図られることを期待するの は困難であるから,そのゆがみを取り除き,正常な民主政の過程を回復するのは, 司法の役割であり,司法の出番なのである。実際にも,現職の国会議員は,現在の 選挙制度において選出された議員であるから,選挙制度に欠陥があっても,国会に その修復を期待することには無理がある。洋の東西を問わず「悪い議員配分は立法 的な医薬によっては治らない病気である。」といわれるゆえんである。自由かつ平 等な選挙権は,国民の国政への参加を保障する基本的権利として,議会制民主主義 の根幹を成すものである。その選挙権の平等かつ適切な行使に影響を与える立法に ついて,国会に広い裁量権を認めていては,憲法47条が,国民主権,選挙権の平 等,議会制民主主義等の憲法原理の枠の中においてのみ,具体的選挙制度の決定を 国会に委任しているにすぎないことを無視する結果となり,憲法で負託された司法 の役割を果たすことにはならないのである。
(2) また,当裁判所は,最高裁平成13年(行ツ)第82号ほか在外日本人選 挙権剥奪違法確認等請求事件の同17年9月14日大法廷判決(民集59巻7号2 087頁)において,「国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許 されず,国民の選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をするこ とがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そし て,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認 めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り,上記 のやむを得ない事由があるとはいえず,このような事由なしに国民の選挙権の行使 を制限することは,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に 違反するといわざるを得ない。」と判示したばかりである。特定の選挙区の投票価値を他の選挙区のそれより低くすること,選挙運動に差別を設けて選挙権の適切な 行使を妨げることは,一種の選挙権の制限である。上記判示に従えば,選挙権を制 限するためには,「そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由が なければならない」のであり,「そのような制限をすることなしには」公正かつ効 果的に代表を選出する選挙制度を設計することが「事実上不能ないし著しく困難で あると認められる場合でない限り,上記のやむを得ない事由があるとはいえ」ない のである。この判断基準に照らしても,1人別枠方式を採用して定められた本件区 割規定,及び選挙運動について既成政党のみを過度に有利に扱う公職選挙法は,憲 法に違反することが明らかである。

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裁判官田原睦夫の反対意見は,次のとおりである。

選挙運動に関する私の意見は,以下のとおりである。 私は,多数意見と異なり,本件選挙において,小選挙区選挙の候補者のうち候補
者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者が行い得る選挙運動の較差 は,候補者届出政党がその政党に所属する個々の候補者のために実際に行い得る選 挙運動の内容をも加味すれば,質,量の両面において著しく大きく,政策本位,政 党本位の選挙制度とすべく小選挙区比例代表並立制の制度が採用され,その選挙制 度を実効あらしめるべく,候補者届出政党に小選挙区選挙に関して選挙運動を行う ことが認められたものであるとの立法目的を考慮しても,その目的のために許容さ れる合理的範囲を超えるものであると評さざるを得ないのであり,候補者あるいは 候補者になろうとする者の被選挙権の平等を妨げるものとして,憲法14条1項, 44条ただし書,47条に違反するとともに,選挙人の選挙権の適正な行使を妨げるものとして,憲法14条1項,15条3項,44条,47条に違反するものであ って,本件選挙は違法であると考える。その理由は,以下のとおりである。
(1) 選挙運動の平等の意味 代議制民主主義の基礎を成す普通選挙は,候補者が共通の土俵の上で,共通の手
段・方法でもって,その信条,政見,政策,識見を選挙人に訴え,その投票を呼び 掛けてその投票者の多数によって当選人を決定する制度であるから,各候補者が行 い得る選挙運動の手段・方法は,「人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育, 財産又は収入によって差別してはならない」(憲法44条ただし書)ことはもちろ んのこと,原則として平等でなければならない。候補者の観点から選挙運動を見た 場合,同一の選挙における候補者の所属する政党のいかん,候補者の推薦母体の有 無等により差異が存する選挙制度が設けられる場合には,当該選挙制度を採用する につき,その差異が生ずるのがやむを得ないといえるだけの合理的な理由が必要と され,かつ,その制度の下で,質又は量の側面において広い範囲で選挙運動を行う ことが許容された候補者と選挙運動を制限された候補者との間の選挙運動の差異 が,候補者の選挙結果に実質的に影響をもたらさない程度にとどまる場合に限られ るべきである。このような制度を採用するにつき,上記のごとき合理的理由もな く,あるいはその差異によって候補者の選挙結果に実質的影響をもたらす場合に は,このような制度は,候補者の被選挙権の平等を害するものであって,憲法14 条1項,44条ただし書,47条に違反し,無効といわざるを得ない。
次に,選挙人の立場から候補者の行い得る選挙運動を見た場合,選挙人が適正に その選挙権を行使するには,各候補者の信条,政見,政策,識見等に関する情報 が,適正にして必要かつ十分に開示され,伝達される機会が保障されることが不可欠である。選挙人に候補者に関する情報が適正に伝達されることによって,公正な 選挙権の行使が保障されるのであり,そのことは,選挙権の投票価値の平等と並ん で,普通選挙制度の基礎を成すものといえる。
このように,選挙人の立場から見ても候補者の行うことができる選挙運動の平等 は不可欠な制度であるが,他の立法目的の関係上その選挙運動の機会や内容に差異 が生じる制度を設けても,その目的達成のために合理的な範囲にとどまり,かつ, 選挙人の選挙権の行使に実質的に影響を及ぼさない場合には,憲法44条で認めら れた国会の立法裁量権の範囲内として許容されるといえる。しかし,選挙制度にお いて設けられた選挙運動の差異につき合理的理由が認められず,あるいはその差異 が選挙権の行使に実質的に影響を及ぼす場合には,かかる制度は,選挙権の適正な 行使を妨げるものとして憲法14条1項,15条3項,44条,47条に違反し, 無効といわざるを得ない。
(2) 候補者届出政党の要件
平成6年に改正された公職選挙法は,政策本位,政党本位の選挙制度を目指し て,小選挙区制を定めるとともに,一定の要件を満たす政党等に小選挙区選挙にお いて候補者を届け出ることを認めることとしたが,そのこと自体は,いかなる選挙 制度を設けるかについて国会にゆだねられた合理的裁量権の範囲内であり,何ら異 とするに当たらない。
小選挙区選挙に候補者を届け出ることのできる政党等の要件は,①当該政党その 他の政治団体に所属する衆議院議員又は参議院議員を5人以上有すること,又は,
②直近に行われた衆議院議員の総選挙における小選挙区選挙若しくは比例代表選挙 若しくは参議院議員の通常選挙における比例代表選挙若しくは選挙区選挙における当該政党その他の政治団体の得票総数が当該選挙における有効投票の100分の2 以上であることとされている(公職選挙法86条1項)。
他方,小選挙区選挙における候補者の届出については,候補者届出政党による候 補者の届出に限られず,自ら候補者になろうとする者はその届出をすることができ
(同条2項),また,本人の承諾を得た上で,他人を候補者として推薦の届出をす ることができる(同条3項)。したがって,上記の候補者届出政党の要件に該当し ない政党等であっても,政党等の代表者等が推薦人になることにより,その政党等 に所属する者を各地の小選挙区選挙の候補者として推薦の届出をすることができる のであって,国民の立候補の自由は確保されており,候補者届出政党制度を設けた こと自体は,憲法上何らの問題も生じない。
(3) 候補者届出政党に小選挙区選挙に関して選挙運動を認めることの問題点 前項に述べたとおり,候補者届出政党に小選挙区選挙の候補者届出の権限を認め
たこととの関連で,平成6年に改正された公職選挙法は候補者届出政党にも小選挙 区選挙において独自の選挙運動を行うことを認めたが,そのこと自体は,立法裁量 として首肯できる。
ただ,同法は,候補者届出政党が小選挙区選挙において行う選挙運動において, 当該政党の政見,政策を訴えることだけでなく,当該政党に所属する小選挙区選挙 の個々の候補者のための選挙運動を行うことを認めているところから,候補者届出 政党に所属する候補者は,候補者個人が行える選挙運動に加えて,候補者届出政党 が当該候補者のために行う選挙運動を自らの選挙運動の一環として利用することが できるのであり,その点で,候補者届出政党に所属しない候補者との間で,選挙運 動に較差が生じることになる(もし,同法が,候補者届出政党が小選挙区選挙で行い得る選挙運動を,政党としての政見や政策に限定し,同政党に所属する個々の候 補者の選挙運動につながる選挙運動を許さないとの制度-選挙運動の自由をできる だけ広げようとする最近の考え方には逆行することになるが-を採用すれば,ここ で検討する較差の問題はほとんど生じないことになる。)。
問題は,その較差が,小選挙区選挙が政策,政党本位の選挙制度を目指したこと に伴う,合理的に許容される範囲にとどまるといえるか否かということである。そ こで,小選挙区選挙において候補者個人が行い得る選挙運動と,候補者届出政党が その政党に所属する小選挙区選挙候補者のために行い得る選挙運動につき,上記の 較差を検討することとする(なお,候補者届出政党は,実際には比例代表選挙にお ける名簿による立候補の届出を行っているところから,比例代表選挙のために認め られた選挙運動を,小選挙区選挙の個々の候補者の選挙運動のために利用すること が可能であり(同法178条の3第2項),小選挙区選挙における候補者届出政党 に所属する候補者とそれに所属しない候補者との間の選挙運動の較差を検討する際 には,その点をも加味するべきであり,その点をも加えると両者間の選挙運動の較 差は,以下に検討するところより更に拡大するのである。)。
選挙事務所の設置 候補者は,選挙区に1か所設けることができるが,候補者届出政党は,候補者を届け出た選挙区ごとに1か所設けることができ,候補者届出政党に所属する候補者 は,実質2か所の選挙事務所を設けることができる(公職選挙法131条1項)。
自動車,船舶及び拡声器の使用 候補者は,原則として自動車1台又は船舶1隻及び拡声器一そろいのほかは使用
することができず(同法141条1項),また自動車の種類や構造にも制限がある
 (同条6項,同法施行令109条の3)。候補者届出政党は,候補者を届け出た選 挙区を包括する都道府県ごとに自動車1台又は船舶1隻及び拡声器一そろいを使用 することができ,当該都道府県における届出候補者が3人を超える場合に10人増 すごとに上記の数にそれぞれ1を加えた数のものを追加して使用することができる
(同法141条2項)。東京都の場合には25選挙区あるので,23人以上の届出 候補者がいれば3台,埼玉県は15選挙区,千葉県は13選挙区,神奈川県は18 選挙区,愛知県は15選挙区,大阪府は19選挙区あるので,それらの府県では, 13人以上の届出候補者がいれば2台の自動車等を用いることができる。そして, この自動車の種類や構造に制限はなく,また,乗車人数にも制限はない。それ故, 候補者届出政党に所属する候補者は,それらの自動車に多数の支援者と共に乗車し て選挙運動をすることができる。
また,自動車に備え付けた拡声器を用いての連呼行為は許容されている(午前8 時から午後8時まで。同法140条の2第1項ただし書)。候補者届出政党の自動 車による連呼行為において,当該小選挙区候補者名を連呼することは禁止されてお らず,また,候補者届出政党は,その自動車等を当該都道府県内のどこで用いるの も自由である。
それ故,候補者届出政党は,上記以外の各道府県においては,候補者個人の自動 車等に加えて1台の自動車等を,また東京都では3台の,東京都を除く上記各府県 では2台の自動車等を特定の候補者の小選挙区(いわゆる重点区)に集中すること が可能となる。そのような集中がされる場合の候補者届出政党に所属する候補者と それに所属しない候補者間の選挙運動の差は,単なる量的な差ではなく,質的な差 と評価せざるを得ないものである。
文書図画の頒布 候補者は,通常葉書3万5000枚,大きさが長さ29.7㎝,幅21㎝(A4
版)以内の2種類以内のビラ7万枚のほかは,頒布することができない(同法14 2条1項1号,8項)。それに対して候補者届出政党は,候補者を届け出た選挙区 を包括する都道府県ごとに通常葉書2万枚,ビラ4万枚を基礎として当該都道府県 における届出候補者数を乗じて得た数(ただし,ビラについては,届出候補者に係 る選挙区においては4万枚以内)を頒布することができる。ビラの大きさは長さ4 2㎝,幅29.7㎝(A3版)以内でなければならないが,種類の制限はない(同 条2項,9項)。上記の通常葉書やビラには候補者の氏名,写真,政見等を掲載す ることができる。
それ故,仮に候補者届出政党に所属する候補者に係る選挙区内で頒布する葉書の うち1万枚,ビラのうち2万枚に当該候補者の名前や写真を掲載すれば,それに所 属しない候補者に比して,いずれも約1.3倍の枚数を頒布できる。それだけで も,単なる量的な多寡の問題とは評し得ない。それに加えて,上記の例では,ビラ のうち0.3倍分は,候補者個人が頒布できるビラの倍の大きさのもの(A3版) まで頒布することができるのであって,そのことにより選挙人に強い印象を与える 写真等を掲載できるとともに,多量の情報を記入できるのであり,候補者届出政党 に所属する候補者とそれに所属しない候補者の頒布できるビラによる選挙運動の差 は,単なる量の差というよりは,質的な差と評し得るものである。
選挙運動用ポスターの掲示 候補者個人は,選挙運動用ポスターは,長さ42㎝,幅30㎝(ほぼA3版)以内のものをポスター掲示場ごとに1枚掲示する以外は掲示することができない。ポスター掲示場の総数は,1投票区に5か所以上,10か所以内とされている(同法 143条1項5号,3項,144条4項,144条の2,同法施行令111条)。 それに対して,候補者届出政党は,候補者を届け出た選挙区を包括する都道府県ご とに1000枚に当該都道府県における届出候補者数を乗じた数(ただし,届出候 補者に係る選挙区においては1000枚以内)のポスターを掲示場所の制限なしに 掲示することができ,長さ85㎝,幅60㎝(ほぼA1版)以内と,候補者個人の ポスターの4倍の大きさのものまで認められている(同法143条1項5号,14 4条1項1号,4項)。
候補者届出政党のポスターの記載内容,掲示内容には制限はないから,仮に選挙 区に掲示可能な1000枚のうち500枚に,当該選挙区に係る候補者届出政党に 所属する候補者の氏名,写真その他の情報を記載するとすれば,上記のとおり,そ の掲示場所の制限がないこと,ポスターの大きさが候補者個人の掲示できるものの 4倍の大きさまで可能であることとあいまって,候補者届出政党に所属する候補者 とそれに所属しない候補者との間のポスターを利用しての情報伝達量の差は著しく 大きく,単なる量的差異にとどまらないといわざるを得ない。
新聞広告 候補者個人は,新聞広告を幅9.6㎝,2段組以内で,選挙運動期間中に各紙合
わせて5回掲載することができる(同法149条1項,同法施行規則19条1 項)。それに対して,候補者届出政党は,当該都道府県における届出候補者数に応 じて,新聞広告の総量として幅38.5㎝,4段組以内で総掲載回数8回以内(候 補者1人~5人)から,総量として幅38.5㎝,16段組以内で総掲載回数32 回以内(候補者16人以上)まで新聞広告をすることができる。
 そして,候補者届出政党の新聞広告には,その記載内容に制限がなく,小選挙区 選挙の候補者の写真や氏名を掲載することも自由であり,また,本件選挙において 実際にその記載がされたことは公知の事実である。その結果,候補者届出政党に所 属する候補者は,それに所属しない候補者の数倍の回数の新聞広告をすることがで き,かつ,候補者届出政党の新聞広告は,1回当たり,個人に比してより大きな広 告を掲載することが可能であり,その中に氏名や写真が掲載されることによる印象 度は,個人候補者単独の新聞広告が与える印象度とは雲泥の差があるのであって, その差は単なる量の差とはいえず,質的な差であると評さざるを得ない。
政見放送 政見放送は,候補者個人には認められず,候補者届出政党にのみ認められる。そ
の放送時間は1回につき9分以内で当該都道府県における届出候補者の数に応じて 認められており,届出候補者数が2人以下の場合は,日本放送協会のテレビ放送1 回,ラジオ放送1回,民間放送局のテレビ放送又はラジオ放送2回以内であり,届 出候補者数の増加とともにその回数が増し,当該候補者届出政党の届出候補者の数 が12人以上の場合は,日本放送協会のテレビ放送8回,ラジオ放送4回,民間放 送局のテレビ放送又はラジオ放送12回の放送をすることができる。その放送内容 に制限はなく,小選挙区選挙の候補者を当該テレビ放送やラジオ放送に出演させる ことも自由である。
そして,本件選挙においても,候補者届出政党における政見放送において,同じ 政党に所属する小選挙区選挙の候補者が出演する放送が実施されたことは,公知の 事実であるが,放送,殊にテレビ放送の今日における広報機能(テレビ放送のいわ ゆるスポット広告が15秒を単位として販売され,かかるスポット広告が商品等の宣伝・広告手段として相当の機能を果たしていることは公知の事実である。)にか んがみれば,テレビ放送,ラジオ放送(殊にテレビ放送)において小選挙区選挙の 候補者が出演し,映像(及び発言)が放映(放送)されるか否かの選挙人の投票行 動に対する影響力の差異は,極めて大きいものがある。
(4) 候補者届出政党がそれに所属する候補者のために行い得る選挙運動と,そ れに所属しない候補者が行い得る選挙運動の較差についての評価
多数意見は,小選挙区選挙において,候補者と並んで候補者届出政党にも選挙運 動を認めることが是認される以上,その政党に所属する候補者とそれに所属しない 候補者が行い得る選挙運動との間に差異が生ずることは避け難いところであり,
「自動車,拡声器,文書図画等を用いた選挙運動や新聞広告,演説会等についてみ られる選挙運動上の差異は,候補者届出政党にも選挙運動を認めたことに伴って不 可避的に生ずるということができる程度のものであ」るとし,また,「政見放送を 候補者届出政党にのみ認めることは,候補者届出政党に所属する候補者とこれに所 属しない候補者との間に単なる程度の違いを超える差異をもたらすものといわざる を得ない。」としながら,「小選挙区選挙における政見放送を候補者届出政党にの み認めることとしたのは,候補者届出政党の選挙運動に関する他の規定と同様に, 選挙制度を政策本位,政党本位のものとするという合理性を有する立法目的による ものであり,また,政見放送は選挙運動の一部を成すにすぎず,その余の選挙運動 については候補者届出政党に所属しない候補者も十分に行うことができるのであっ て,その政見等を選挙人に訴えるのに不十分とはいえないこと,小選挙区選挙に立 候補したすべての候補者に政見放送の機会を均等に与えることには実際上多くの困 難を伴うことは否定し難いことなどにかんがみれば,小選挙区選挙における政見放送を候補者届出政党にのみ認めていることの一事をもって,選挙運動に関する規定 における候補者間の差異が合理性を有するとは考えられない程度に達しているとま で断ずることはできず,これをもって国会の合理的裁量の限界を超えているものと いうことはできない。」とする。しかしながら,(3)で詳細に検討したとおり,小 選挙区選挙において候補者届出政党に選挙運動を認めることにより,その政党に所 属する候補者が得ることができる選挙運動上の利益は,それに所属しない候補者が 行い得る選挙運動と対比した場合,各選挙運動それぞれについて,単なる量的相違 にとどまらず,質的な較差が生じていると評さざるを得ないのであり,それらの各 選挙運動の総合結果は,各選挙運動の較差を加算したものにとどまらず,それらの 較差を乗じたものとなるのである。
そのような較差は,政策本位,政党本位の選挙制度の故をもって合理性が認めら れる限度をはるかに超えているものと評さざるを得ない。
しかも,候補者届出政党の要件が,前述のとおり現に国会議員5人以上を有する か,直近の衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙において有効投票の10 0分の2以上の得票を得た政党等でなければならないとされているところから,国 会議員5人以上を擁する既存の政党や,上記の選挙で上記以上の得票を得た既存の 政党等に加えて,既存の国会議員が5人以上集まって結成した新しい政党等のみが 候補者届出政党としての上記の選挙運動を行うことができるのであり,国会議員が 4人以下しか結集できない新党や,新たな理念の下に結成された政党等について は,その新党等が仮に全小選挙区に候補者を擁立するだけの力を有していても,各 小選挙区においては,(3)で検討した各候補者個人が行うことができる選挙運動し か行うことができないのであって,この候補者届出政党の要件が,新規の政党等の参入障害となるという点において,政策本位,政党本位のための選挙運動であると の理念とは相反する結果をもたらしているとさえ評し得るのである。
(5) まとめ 以上,詳述したように,本件選挙の小選挙区選挙において,候補者届出政党にそ
の政党に所属する候補者のための選挙運動を行うことを認めることにより,候補者 届出政党に所属する候補者が行い,また自らのために利用し得る選挙運動と,それ に所属しない候補者が行い得る選挙運動の較差は,政策本位,政党本位の選挙であ るとの立法目的の下で合理性を認められる限度をはるかに超えているといわざるを 得ないのである。
その結果,本件選挙における小選挙区選挙は,候補者届出政党に所属する候補者 か,それに所属しない候補者かによって,利用できる選挙運動に著しい較差があ り,候補者又は候補者となろうとする者の被選挙権の平等を害するものとして,憲 法14条1項,44条ただし書,47条に違反し,また,選挙人においても,候補 者届出政党に所属する候補者とそれに所属しない候補者とが行い得る選挙運動の較 差が合理的な範囲を超えているため,各候補者の信条,政見,政策,識見等,選挙 権を適正に行使するための情報を,適正かつ平等に取得する機会を奪われたもので あって,憲法14条1項,15条3項,44条,47条に違反するものといわざる を得ない。
なお,従前の当審大法廷が確立した判例法理に則り,事情判決の法理を適用し て,選挙の違法を宣言するにとどめるべきものと考える。





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