自由権規約第40条(b)に基づく第3回報告 第2部
規約第40条(b)に基づく第3回報告(PDF)
国際人権規約 | 外務省
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規約第40条(b)に基づく第3回報告(PDF)
国際人権規約 | 外務省
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第4条
緊急事態を想定した法令には、基本的人権を制約する規定は何らおかれていない。我が国においては、緊急事態が発生した場合には、必要に応じ、憲法及び本規約に従った措置が講ぜられることとなろう。 第5条
(1)我が国は、いかなる意味においても、本規約において認められる権利及び自由を破壊し、又は、本規約に規定する範囲を越えてこれらを制限するように本規約の規定を解釈することはなく、また、(2)我が国において、本規約が言及していない権利につき、右に言及されていないことを口実としてその権利を侵すことはできないことは、第2回報告で述べた通りである。
第6条
1. 我が国は、憲法前文において、 「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」 し、第9条において「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とともに、国の交戦権を認めないとしている。その他生命に対する権利に関する法的枠組については、第1回報告で述べた通りである。なお、乳児死亡率の減少、伝染病の予防については経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第10条~第12条に関する報告(E/1986/3/Add. 4)参照。
2. 我が国における死刑の適用は、極めて厳格かつ慎重に行われている。 1986年から1990年までの5年間に死刑が適用され判決が確定した者は、合計30名(年平均6名)であり、 しかも、いず
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れも残虐な殺人事件や強盗殺人事件に限られている(法定刑中に死刑の定めのある罪は17罪。表参照)。現状においては、極度に凶
悪な犯罪を侵した者に対し、死刑の適用を存置すべきであるとするのが現在の我が国民の大多数の意見であり、これは、世論調査(最近の調査は1989年6月実施)によって裏付けられている。
表 死刑の定めのある罪(17罪)
(1)内乱首魁(刑法第77条第1項第1号)
(2)外患誘致(刑法第81条)
(3)外患援助(刑法第82条)
(4)現住建造物等放火(刑法第108条)
価)激発物破裂(刑法第117条第1項、第108条)
(6)現住建造物等侵害(刑法第119条)
(7)船車覆没致死(刑法第126条)
(8)往来危険による船車覆没致死(刑法第127条、第126
条第3項)
四)水道毒物混入致死(刑法第146条後段)
(10)殺人(刑法第199条)
(11)強盗致死(強盗殺人を含む) (刑法第240条後段)
(12)強盗強姦致死(刑法第241条後段)
(13)爆発物不法使用(爆発物取締罰則第1条)
(14)決闘殺人(決闘罪に関する法第3条、刑法第199条)
(15)航空機墜落等致死(航空の危険を生じさせる行為等の処罰
に関する法律第2条第3項)
(16)航空機強取等致死(航空機の強取等の処罰に関する法律第
2条)
Li 7)人質殺害(人質による強要行為等の処罰に関する法律第4
条第1項)
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3. 死刑廃止の問題は、国民感情及びそれに基づく国内法制に直接関わるものであるので、B規約第2選択議定書の締結の問題は慎重に検討することが必要である。
4. 我が国の法制上、独立の裁判所による公平な審理、無罪の推定、 弁護の保障及び上級の裁判所による再審理など手続き上の保障が十分に確保されていることは、前2回の報告において、本規約第 14条に関連して述べたとおりであり、右保障が死刑を言い渡す裁判にも当然適用があることも前回報告のとおりである。
5. 死刑確定者の処遇
(a) 我が国の刑法第11条第2項は、死刑の言渡しを受けた者はその執行に至るまでこれを監獄に拘置する旨規定している。この拘置は、死刑の執行のために法律で定められた身体の拘束であって、死刑判決という裁判の執行としてなされるものである。この拘置がなされている間は、刑の時効は進行しない。
(b) 死刑の判決が確定した者は、死刑の執行に至るまで、拘置所又は刑務所の拘置区に、他の被収容者とは分離した特別の区域に収容される。死刑確定者は、おおむね未決拘禁者に準じた処遇を受けている。また、その心情の安定に資するため、希望により宗教教講及び篤志面接委員による助言・指導も行われている。
(c) 恩赦の適用について死刑確定囚が除外されてはいない。過去に 「減刑」により無期懲役に減刑された例がある。
(d) 死刑確定者の面会については、その拘禁目的に照らして、拘禁施設の長が個々具体的に面会の許可・不許可を決するとするのが監獄法の趣旨であり(監獄法第45条第1項)、実務運用上は、
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死刑確定者本人の身柄の確保を阻害するおそれがある場合等、死刑確定者の拘禁の目的を害することとなるー定の場合を除き、職員の立会いの下に、家族・弁護士等との面会を許可する扱いとしている。また、裁判所による再審開始決定が確定した死刑確定者については、未決拘禁者の場合と同様、職員の立会いなしに、弁護人又は弁護人となろうとする者と面会することを認めている。 6. 警察官は、警察法第67条により「小型武器」の所持が認められており、さらに、警察官職務執行法第7条において、 「武器」の使用の要件が定められている。そのほか部内の規程により、例えば拳銃については、その使用のみならず、その携帯、保管についてまで細かく定められている。
これらにより警察官は、武器の使用を厳しく制限されるとともに、人に危害を加えることができるのは、正当防衛等極めて必要性の高い場合に限られている。そしてこれらに反して武器を使用した場合には、懲戒事由になり得ることはもとより、刑事的にも責任を追及されることがある。
なお、警察官が所持できるのは、拳銃、ライフル銃等警察官が個人装備として携帯できる程度の小型武器である。
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警察官の拳銃使用状況は、下記のとおりである。
年別
|
件数
|
態 様
|
危害を及ぼした件数
| ||||
威 嚇
|
相手に向け
|
総 数
|
死 亡
|
負
|
傷
| ||
1986
87
88
89
90
|
10 13 10 16
19
|
9
10
10
12
15
|
13 44
|
3 34
|
(ノ] ・1
|
1 4 4
| |
第7条
1. 拷問等の禁止に関する法的枠組の詳細については、第2回報告で述べたとおりであるが、概要は次のとおり。
憲法第13条は、すべての国民は、個人として尊重される、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利は尊重される旨定めている。同第36条は、 「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」とし、また、同第38条第1項は、 「何人も、 自己に不利益な供述を強要されない」と定めている。
憲法の要請を受けて刑法は第195条で裁判・検察・警察・行刑等の職員による刑事被告人その他の者(法令により拘禁されている者に限らない)に対する暴行・陵虐行為を禁止し、違反者には懲役又は禁固に処する旨定めている。この「陵虐」(cruelty) は、暴行以外の方法によって、肉体的あるいは精神的な苦痛を加える行為を意味する。 また刑法は第19 4条で裁判・検察・警察職員の職権濫用による逮捕又は監禁の処罰を規定している。更に、刑法第 193条は、公務員がその手段を間わず、職権を濫用して国民に対
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し、義務なきことを行わしめ、又は行うべき権利を妨害することを禁じ、違反者を処罰する旨定めている。このように、日本では、拷問又は残虐な取扱い若しくは刑罰に限らず、公務員による非人道的な取扱いも禁止されている。
また、これらの罪については、検察官の不起訴処分に不服のある―定の者が、裁判所にその審判に付することを請求し、裁判所がこの請求を認めて審判に付する決定をしたときは、公訴の提起があったものとみなされるとの特別刑事手続(準起訴手続)をもうけて、 検察官が不当な不起訴処分をしたために処罰を免れる者がないようにしている(刑事訴訟法第262条以下)。
更に、憲法第38条第2項は、 「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」,とし、また、刑事訴訟法は、右のような証拠はもとより、その他任意にされたものではない疑いのある自白は証拠とすることができないこととし、このような行為が行われることのないように証拠法の面からも保障している(同法第319条第1項)。
2. 拷問の禁止については、上述のとおり憲法第36条に規定されており、検察官警察職員等捜査活動に携わる公務員は、その研修において、憲法に関する講義等を受講することとされており、その中で十分に、教育が行われている。
3, 刑事拘禁施設における人権侵害の防止及び救済については、第 10条についての本報告及び第1回、第2回報告のとおり。
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第8条
1. 奴隷的拘東及び犯罪による処罰を除いた苦役からの自由並びに児童の酷使の禁止等の法的枠組については、第2回報告で述べたとおりであるが、詳述すると以下のとおりである。
(a) 憲法第18条は、 「何人も、いかなる奴隷的拘東も受けない」 と規定し、奴隷的拘束からの自由を明文により認め、人を奴隷的拘東の状態に置くことを禁止している。また、同第27条第3項は、 「児童は、これを酷使してはならない」と規定し、児童の酷使を禁止している。
(b) そして、憲法のこれらの各条項の趣旨を受けて、刑法は、人身売買又は被売者等の国外移送を行った者及び脅迫、暴行を用いて人に義務なきことを行わせるいわゆる強要行為を行った者をそれぞれ懲役に処する旨定めている(同法第226条第2項、第 223条)。
(C) また、労働基準法は、強制労働を禁止し、労働者の酷使を禁止している(同法第5条、第69条第1項)。
(d) 更に、売春防止法は、誘惑、脅迫等による売春、売春をさせる契約、及びいわゆる管理売春を禁止、それぞれ懲役刑ないし罰金刑を定めている(同法第7条、第10条、第12条)。
(e) また、職業安定法は、監禁等を手段とする職業紹介、労働者の募集・供給を禁止し、懲役刑ないし罰金刑を定めている(同法第 63条)。児童福祉法は、児童の人身売買事件などを防止する趣旨から、他人の児童を一定期間同居させる場合は、届出を要することとされている(同法第30条)。
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け) また、児童福祉法は、児童に対する禁止行為を定め深夜の労働等の行為をさせた者に対しては、罰金または懲役に処する旨定めている(同法第34条、第60条)。
(g) そして違法に身体の自由を拘束されている者は、人身保護法により救済を求めることができ、また、人を奴隷とするような私人間の法律行為は、民法第90条により公序良俗に反するものとして無効とされる。
2. 我が国には、本規約第8条3 (b)に規定されている「強制労働」 を伴った拘禁刑に相当する刑罰として、刑法第12条に規定する懲役及び同法第18条に規定する労役場留置がある。
(a〕 懲役受刑者は、監獄に拘置され、 「強制労働」に服することとされており、 この「強制労働」は刑務作業として実施されている。作業時間等の就業条件は一般の労働者に準じて決められており、また、作業賞与金が支給される。
(b) 労役場は、罰金又は科料を完納しない者を判決に基づいて留置する場所であり、監獄に付設されている。労役場留置者は、自衣の着用、寝具の自弁が原則として許されている以外は、作業その他の処遇は概ね懲役受刑者に準じて行われている。
第9条
身体の自由及び安全に関する法的枠組については、第1回及び第2 回報告で述べたとおりであるが、以下のとおりである。
L 本条1については、憲法第31条は、 「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」、同第33条は、 「何人も、現行犯として
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逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない」、同第34条は、 「何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」 とそれぞれ規定しており、これを受けて刑事訴訟法等の法律が、逮捕、勾引、勾留等の要件・手続きを定めている。
このほか、自由剥奪の措置として、入管法に基づく退去強制令書又は収容令書による外国人の収容、少年法による観護措置、逃亡犯罪人引渡法による拘禁、売春防止法による補導処分、犯罪者予防更生法による引致又は留置、,執行猶予者保護観察法による引致又は留置、伝染病予防法による伝染病患者の強制収容・隔離、麻薬取締法による麻薬中毒患者の入院措置、精神保健法による自傷他害のおそれのある精神障害者の入院措置等身柄の拘束を伴う行政措置及び精神保健法上の任意入院等があるが、これらはすべて、理由及び手続きを定めた法律に基づくものである。
2(a) 1987年に精神保健法を改正し、精神障害者等に対する適正な精神医療及び保護を行うに当たって人権に一層の配慮を加えるとの観点から、次のように定めた。
精神科医療に関し一定以上の知識・経験を有する医師を厚生大臣が精神保健指定医として指定し、本人の意思によらな山、入院を行う場合や入院中の患者に対し一定の行動制限を行う場合には、
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その診断を必要とする。また、入院患者等は、都道府県知事に対し退院及び処遇の改善請求を行うことができ、当該請求は、精神医療審査会(各都道府県に設置され、医師、法律家及び学識経験者の3者から構成される独立した第3者機関)において審査を受け、都道府県知事は必ずその審査結果に従って必要な措置を講じなければならない。更に、定期的に患者の病状を報告させ、精神医療審査会で入院継続の適否等について審査する。又、信書の発受の制限等の禁止、入院時の告知等患者の人権を擁護するための規定がある。なお、精神保健法では、新たに本人の同意に基づく入院に関する規定を盛り込むとともに、これを原則的な入院形態とすることとした。この形態による入院患者は、原則として自由に退院することができるとともに、上記処遇の改善請求等の人権擁護のための規定の適用を受ける。
精神病院に入院中の者の数は、 1990年6月末現在で約34 万9千人となっている。
(b) また、精神医療審査会による審査に加えて、精神保健法第29 条第1項に基づき都道府県知事の措置により入院させられた者は、当該措置の取消を求める行政訴訟を提起することができる。 又、人身保護法による救済を請求することもできる。親権者又は監護者がいる場合には、親権又は監護権に基づき引渡を請求することも可能である。
さらに、拘束者を監禁罪(刑法第220条)に当たるとして告訴することも可能である。
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3. 本条3の権利については、
(a) 司法警察員は、被疑者を逮捕した場合は、逮捕の理由とされた事実の要旨及び弁護人選任権を被疑者に告知するとともに、弁解の機会を与えなければならず、それにより留置の必要がないと判断したときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。留置の必要があると判断したときは、逮捕から48時間以内に検察官に被疑者を送致しなければならない(刑事訴訟法第203条)。
被疑者を受け取った検察官は、被疑者に弁解の機会を与え、留置の必要がないと判断したときは直ちに被疑者を釈放する。更に留置の必要があると判断するときは、被疑者を受け取ったときから24時間以内、逮捕から72時間以内に、裁判官に対し勾留を請求しなければならない。ただし、この時間内に公訴が提起されたときはこの限りではない。勾留の請求又は公訴の提訴を行わないときは、検察官は被疑者を直ちに釈放しなければならない(同法第205条)。
勾留の請求を受けた裁判官は、被疑者に質問を行い、理由があると認めるときは勾留に付する(同法第2 07条)。勾留期間は、勾留請求のときから10日間であるが、やむを得ない理由があれば、検察官の請求により10日を超えない範囲で延長が認められる。検察官は、勾留期間内に公訴を提起しない場合は、直ちに被疑者を釈放しなければならない(同法第208条)。
このように、被疑者の身柄拘束期間は、司法のチェックの下で厳格に守られている。
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(b) それぞれ勾留請求前の留置が認められている結果、通常の事件においては、逮捕・勾留を通じて、起訴前に、最長22日間ないし23日間の被疑者の身柄拘束が認められていることは事実であるが、勾留の期間はもとより逮捕後の留置期間も上記のとおり刑事訴訟法(刑訴法)に明記され、かつ、厳格に運用されている。
また、逮捕・勾留中に逮捕・勾留の基礎となっている被疑事実以外の事実についても取調べができることは事実であるが、逮捕・勾留の要件及び必要性は、いずれも一定の被疑事実について判断されるものであり、当該被疑事実について逮捕・勾留の要件及び必要性がないのに、他の被疑事実の捜査のために逮捕・勾留が行われるということはあり得ない。従って、専らある被疑事実 Aの捜査のために他の被疑事実Bについて被疑者を逮捕・勾留するといういわゆる別件逮捕・勾留も容認されておらず、仮に違法な別件逮捕・勾留が行われた場合には、その間に得られた自白を含む証拠を排除する等の方法によって、違法な別件逮捕・勾留を防止する制度的保障がなされているところである。
4(a) 本条5の権利については、憲法第17条は、 「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」と規定し、これを受けて国家賠償法が制定されている。同法は、 「国
又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、 これを賠償する責に任ずる」 (同法第 1条第1項)と規定し、公権力の行使に当たる公務員の職務執行
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の際の故意又は過失により違法に逮捕・抑留されたものは、同規定に基づき国又は公共団体に対しその損害の賠償を請求できる。
(b) また、抑留又は拘禁が違法でなかった場合についても、憲法第 40条は、 「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる」と規定し、その補償の範囲を拡げている。この規定を受けて刑事補償法が制定され、無罪の裁判を受けた者につき、 未決の抑留又は拘禁による補償(同法第1条第1項)と刑の執行及び拘置による補償(同法第2項)が認められており、その場合における補償金額が、同法の定める制限内で裁判所が決定することとされている(同法第4条)。
また、不起訴処分になった場合であっても、結果的に無実のものが抑留・拘禁されたため被った財産的、身体的、精神的不利益の重大さにかんがみるときは、これに対する補償を行うことが憲法第40条の趣旨に沿い、かつ、正義と衡平の観念に合致すると考えられるところから、被疑者補償規程(1957年4月12日法務省訓令第1号)が設けられ、不起訴処分になったものにつき、そのものが罪を犯さなかったと認めるにたりる十分な理由がある場合に、抑留又は拘禁による補償を行う事とされている(同規程第2条)ことは、第2回報告で述べたとおりである。
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第10条
本条に関連する法的枠組みは、第1回及び第2回報告で述べたとお
りであり、被拘禁者は、人道的に、かつ、人間固有の尊厳を尊重して
扱われている。
1. 刑事拘禁施設における被拘禁者の人権侵害の防止及び救済の制度
については、次のとおり。
A, 監督・査察制度
第2回報告参照。
B. 不服申立制度
第2回報告参照。
C. 法令・B規約等の周知徹底
(1) 被留置者の権利は、留置を開始する際に、留置担当官によって告知される。また、,留置担当官に対する研修においても、B 規約等の国連の関連規則の主旨に則った処遇を行うよう指導している。
(2) 矯正施設の被収容者は、B規約の登載された法令集を自己の負担において入手することができ、また、施設に備えつけられている法令集を、閲覧できる。
(3) すべての矯正職員に対し、B規約や被拘禁者処遇最低基準規則等の国連の関連規則をも視野に入れた内容の研修を行っている。
D. 家族、弁護人との接見交通
(1) 憲法第34条前段は、 「何人も、理由を直ちに告げられ、かっ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又
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は拘禁されない」とし、刑事訴訟法第39条第1項は、未決拘禁者について、職員の立合なしに弁護人又は弁護人になろうとするものに面会することを認めている。この接見交通権は、現実の捜査においても被疑者・弁護人(及び弁護人になろうとするもの)の権利として十分に尊重されている。
しかしながら、この接見交通の権利といえども、絶対的なものではなく、憲法の精神と抵触しない限りにおいては、制限を受ける。
弁護人との接見が拒否される場合には、①刑訴法第39条第 3項に基づく接見指定権の行使によるものと、②被疑者を勾留している監獄の施設管理上の必要に基づくものとがある。 (a) 前者は、 「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第1項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。」とする刑訴法第39条第3項の規定に基づき、 捜査のために必要がある場合に、検察官等が、接見の申出に対し、接見の日時等を指定するものである。ただし、その指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならないと定めている。
この規定は、被疑者の防御権と捜査の必要とのバランスを考えて設けられたものであり、被疑者の防御権を不当に制限しないよう実際の運用において十分の配慮がなされている。
すなわち、検察官による接見指定の実務においては、検察官は、接見指定を行う可能性のある事件について、あらかじ
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め監獄の長に対し、接見指定を行うことがある旨の通知を発することとしている。当該通知のあった事件について、弁護人が直接監獄に赴いて被疑者との接見を求めたときには、監獄の係官は検察官に連絡を取り、検察官が接見指定の要否を判断し、接見指定を行わないか、あるいは接見時間のみについて指定を行う場合には、弁護人と被疑者を直ちに接見させる取扱いとしている。従って、あらかじめ監獄の長に対する通知がない場合だけでなく、通知があった場合でも、弁護士は被疑者と接見するためには直接監獄に赴けばよく、前もって検察官から入手した指定書を持参しなければ接見できないということはない。
なお、検察官等による接見日時等の指定については、その処分の適法性について、被疑者側から裁判所に対する不服申立てが可能である。
最高裁は、 1978年7月10日の判決において、捜査機関による接見等の日時等の指定は、必要やむを得ない例外的措置であり、弁護人等から被疑者との接見の申出があったときは、原則として何時でも接見の機会を与えなければならず、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防御のため弁護人等と打ち合わせることのできるような措置を取るべきである旨判示した。接見指定の実務は同判決の趣旨を十分尊重して行われている。
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なお、最高裁は、 1991年5月10日及び同月31日の両判決において、上記にいう捜査の中断による支障が顕著な場合には、捜査機関が、弁護人等の接見等の申出を受けた時に、現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち合わせているというような場合だけでなく、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合も含むものと解すべきである旨判示している。
(h) 後者の施設管理上の必要については、例えば、監獄が、緊急の必要性のない深夜の接見を拒否するような場合であり、 施設の人的及び物的条件が有限である以上、当然に認められる制約で、やむを得ないものである。
(2) 弁護人以外の者との面会については、職員が立ち会うが、刑事訴訟法の規定に基づいて面会等が禁止される場合を除けば、 面会の相手方に制限はない。
(3) 受刑者については、面会の相手方は、原則として、親族に限られ、その他の者との間では、特に必要が認められる場合にのみ許されることとなっている。 (監獄法第45条第2項)しかし、実際上、本人の処遇上有益と判断される場合には、積極的に許可する等弾力的に運用されている。面会には、原則として、職員が立ち会うが、処遇上その他必要があると認められる場合には、立合いを行わない措置もとられている。
(4) 平成3年7月9日、最高裁第3小法廷において、監獄法施行
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規則が、在監者と14才未満の者との接見を原則として許さず、施設の長が必要があると認めたときに例外的にこれを許すとしていること(同規則第120条及び第124条)について、同規定は、未決拘禁者に適用される限度において無効である旨判示されたため、これを受けて、同規則の関係規定について所要の修正がなされた。
2. いわゆる「代用監獄」について
(a) 警察留置場制度
(1) 日本においては、ほとんどの警察署に警察留置場が設置されている。警察留置場には、刑事訴訟法に基づき逮捕された被疑者、刑事訴訟法の規定に基づき裁判官の発する勾留状に基づき勾留された未決拘禁者等が留置されている。警察に逮捕された者のうち年間約11万人が、警察留置場に留置されている。逮捕された者は、釈放される場合を除いて、裁判官の面前に連れて行かれ、裁判官は、勾留するか否かを決定する。警察留置場に勾留される被疑者は、年間約8万人である。警察留置場に留置される期間は、平均15日間である。
(2) 被疑者の勾留の場所
日本では、刑事訴訟法によれば、被疑者の勾留の場所は、監獄とされている(同法第64条第1項等)。そして監獄法は、 被疑者を勾留する場所として、監獄(未決の者を収容する施設は拘置所といわれている。)の他に警察留置場とすることが出来ると定めている(同法第1条第3項)。この監獄に代えて警察の留置場に被疑者を勾留する制度がいわゆる「代用監獄制
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度」と呼ばれている。被疑者の勾留の場所は、検察官の請求に基づき裁判所が決定する(刑事訴訟法第64条第1項)。この勾留の場所は、施設の収容能力、捜査機関との近接性、被疑者の利益等を考慮して裁判官の裁量により決定される。警察留置場の管理は、地方の機関たる都道府県警察が行い、国の機関たる警察庁が行うわけではない。
(b) 警察留置場における生活
(1) 留置場の構造および設置
C居室は、被留置者のプライバシー保護に留意している。居室の前面を不透明な板で遮蔽し看守が居室内にいる被留置者の姿を見ることはできない構造になっている。
0居室内にはじゆうたん又は畳が敷かれている。そして、畳等の上に直接座るという日本の生活習慣を勘案し、居室においてもこれと同様の生活習慣が保たれるようにしている。
0被留置者は、単独収容することを原則としており、その適切な処遇を行うのに必要な面積が確保されるように基準が定められている。
(2) 留置中の行動
他の被留置者の平穏に支障を及ぽしたり、拘禁目的に反しな
い限り、居室内での被留置者の行動は自由である。
(3) 被留置者の健康保持
0被留置者の健康保持のために、 1日30分間、被留置者が希望する場合には1時間を超えて、戸外にも設けられた運動場で自由に運動できる時間が設けられている。
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0睡眠時間帯は居室の明りを減光して睡眠に支障がないように配慮している。
C取調べの時間については、執務時問(通常8時30分から午後5時15分まで)中に行うよう努めており、執務時間外に取り調べなければならない事情がある場合でも、留置場の日課時限において就寝時刻が定められている趣旨にもとることのないようにしている。
(4) 日用品等の自費購入等
食料品、衣類等の白費購入及び差入れも認められる。
(5) 面会、信書の発受等
弁護人等との面会及び信書の発受は、原則として保障されている。家族等との面会及び信書の発受についても、裁判所が拘禁目的を達成するために行う制限を除き、原則として保障されている。
(6〕 以上に述べた被留置者の処遇は、捜査官とは身分的に別の留置業務担当の職員が当たっており、捜査官が被留置者の処遇を行うことは、禁止されている。また、留置業務担当職員が、被留置者の処遇に関し、捜査の進展状況や捜査官の取調べ状況に応じて差別することは禁止されている。
(7) 結論
以上のように、日本の留置場において行われている被留置者の処遇は、被留置者の人権を十分に保障したものであり、国連の被拘禁者処遇最低基準規則の趣旨を満たしている。
b3‘一a●一D
(c) 留置施設法案について
政府は、都道府県警察が管理運営する留置施設における被留置
者の処遇に関する規定を整備する等を目的として、留置施設法案
にも取り組んでいる。留置施設法案は、被勾留者の人権に関し、
次のような規定を置いている。
0被勾留者の処遇と刑事施設における被勾留者の処遇について、
法律上均衡を図り、平等処遇を保障する。
0留置業務と捜査の分離を法律上明確にする。
0日常生活に必要な物品の貸与又は支給に関する規定を設け、被
勾留者の処遇の改善を図る。
3, 本条2 (b)の少年被告人の処遇については第2回報告書で述べた
とおり。
4. 本条3についての我が国における法的枠組・制度・現状について
は、第2回報告で述べたとおり。
第11条
契約上の義務の不履行は、民事上の責任を生ずるにとどまり、第2 回報告で述べたとおり、右不履行が犯罪とされることはなく、従って何人もこれを理由として拘禁されない。
第12条
L 第2回報告で述べたとおり、憲法第22条により居住・移転の自由及び外国移住の自由を保障されている。自国に戻る権利については、憲法に明文の規定はないが、当然に保障されていると解されている。
b34一Ol~D
2. 入管法は、日本人の出国及び帰国について、出国、帰国に際しての確認の手続を規定しているにとどまり (同法第60条、第61 条)、出国及び帰国を制限している規定は存しない。
外国人の入国・在留については、入管法により、入国しようとする当該外国人が、日本国政府が承認した外国政府等の発行した有効な旅券を所持していること、同法に定める在留資格に該当すること、さらに上陸審査基準が定められている在留資格にあっては当該基準に適合すること等の条件を充足すれば上陸を認められる。外国人の在留期間については、各在留資格ごとに法務省令で定められている。 (外交、公用及び永住者以外の在留資格を伴う在留期間は 3年を超えることができない(同法第2条の2第3項)とされている。)
外国人の日本国内における居住及び移転については、内外人の間で何ら差異はない。
同法は、外国人の出国については、重大な犯罪を犯し、訴追され又は逮捕状が発せられている者などの場合において出国が一時留保されるときを除き、出国の確認の手続を規定しているにとどまり (同法第25条、第25条の2)、外国人の出国を制限する規定は他に存しない。
3, 本条の権利に対する制限としては、以下の制限があるが、いずれも本条3の規定に合致する必要最少限のものである。
(a) 保釈又は勾留執行停止された場合の刑事被告人の住居制限(刑事訴訟法第93条、第95条)
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(b) 仮上陸、特例上陸等の許可を受けた者の居住及び行動範囲の制限(入管法第13条第3項、第14条第3項、第16条第4項、 第16条第4項、第18条第4項、第18条の2第3項)
仮上陸の許可は、上陸手続中において、主任審査官が特に必要があると認める場合に、同手続が完了するときまでの間行うことができる(入管法第13条第1項)。主任審査官が仮上陸許可を行う場合、逃亡防止等の目的から、当該外国人の住居及び行動範囲を制限、呼出しに対する出頭義務その他必要と認める条件を付し、かつ、保証金を納付させることができる。 (同法第3項)
(C) 刑事事件で訴追を受けている者等の旅券発給制限(旅券法第 13条)
【d) 伝染病患者の収容・隔離(伝染病予防法第7条、第8条) 4, 我が国の難民政策
(a) 難民条約上の難民
我が国は、 1981年10月の難民条約の締結に伴い、個々の外国人が同条約及び難民議定書にいう難民か否かを判断する難民認定事務を1982年1月から開始しており、 1991年8月末までの処理状況は、以下のとおりとなっている。
受 理 922人
ZJ
|
審査結果
|
取下げ 142人
認 定 197人
不認定 525人
未処理 58人
|
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(b) インドシナ難民
(1) インドシナ三国(ヴィエトナム、ラオス、カンボディア)からの難民の我が国への定住受入については、 1978年以来その推進に努め、 1991年8月末までの定住総数は7, 680 人となっている。
(2) いわゆるボート・ピープルについては、 1975年5月以来その上陸を認めており、 1991年8月末までの上陸総数は 12, 989人である。
(3) ボート・ピープルの急増に対応するため、 1989年6月に開催されたインドシナ難民国際会議の合意を踏まえての一時庇護のための上陸許可の審査を、いわゆるスクリーニング制度 (迫害から脱出した本来の難民と豊かな生活を求める経済難民とを区分するもの)として同年9月13日から実施している。 同制度実施以降1991年8月末までに入国したヴィエトナム人ボート・ピープルは474人。うち、スクリーニングを了した者は27人である。
(c) その他
(1) 本邦で難民条約上の難民として認定された者については、その定着を図る観点から、永住許可の要件を緩和し得るものとしている(入管法第61条の2の5)0
(2) 我が国では難民条約上の難民として認定された者に限らず、 定住を認められたインドシナ難民についても、難民条約の趣旨を踏まえ、職業、教育、社会保障、住宅等で十分に人道的配慮を行っている。
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なお、具体的にはインドシナ難民の定住を円滑に進めるため、専用施設にBカ月間収容して、日本語教育等を行い、かつ退所時には、就職及び住宅のあっせん等の援助を行うなどの施策を行っている。
第13条
外国人の退去強制については、その事由及び手続は入管法に規定されており、同法に基づき行われている。詳細は第2回報告書記載のとおり。
第14条
本条に関する我が国における法的枠組は、第1回及び第2回報告で述べたとおりであるが、若干の事項について次のとおり追加する。 1. 本条3 (c)については、憲法第37条は、被告人は、裁判所の迅速な裁判を受けることを保障している。刑事訴訟規則は、訴訟関係人は、第1回公判期日前に、できる限り証拠の収集及び整理を行うとともに、打合せをして争点を明らかにし、裁判所に対して審理に要する見込み時間等を申し出なければならないと定めているほか、 裁判所は、審理に2日以上要する事件については、できる限り連日開廷し継続して審理を行わなければならないとし、やむを得ない場合でなければ公判期日の変更ができないとするなど(同規則第 178条の2、第181条等)、裁判の充実化・迅速化を図っている。
2. 本条3 (d)に関しては次のとおり。
(a) 弁護人を付される権利については、刑事訴訟法で、裁判所は、 公訴提起があったときは、遅滞なく被告人に弁護人を選任するこ
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とができること及び貧困等の理由により弁護人を選任できないときは弁護人の選任を要求することができる旨を知らせなければならず(同法第272条)、被告人が貧困等の理由により弁護人を選任することができないときは、裁判所が、被告人の請求により、弁護人を選任する国選弁護制度が確立している(同法第36 条)。
(b) 弁護人は、原則として、弁護士でなければならないが、弁護士に対する法規制は弁護士法(1949年制定)に次のとおり定められ、職務の独立性の確保が図られている。
0弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする(第1条第1項)。その職務として、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行う(第3 条)。
0弁護士となるための資格を有する者は、司法修習生の修習を終えた者とされており (第4条)、その資格は、裁判官、検察官となる資格と同一である。
0弁護士及び弁護士会は、国家機関の指揮監督を受けず、行政庁及び裁判所は、弁護士及び弁護士会に対する監督権を有していない。日本弁護士連合会は全国の弁護士及び地方裁判所の管轄区域ごとに設立される弁護士会をもって構成されており、弁護士及び各地弁護士会に対する指導・監督を行っている(第45 条)。
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第15条
第1回報告で述べたとおり、憲法第31条は、罪刑法定主義を定め、第39条において、遡及処罰の禁止を規定し、本条の権利を保障している。
第16条
第2回報告で述べたとおり、憲法は、個人の尊重(第13条) 基本的人権の享有(第11条)、生命、自由及び幸福追求に対する権利(第13条)を規定し、また裁判を受ける権利(第32条)を定めて、最終的には司法的救済手段による個人の権利を保障している。
第17条
1. 本条に規定された権利の保護に関する法的枠組は、第1回及び第 2回報告で述べたとおりであるが、主要点は次のとおりである。
憲法は、 「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、 捜査及び押収を受けることのない権利は、・・・…、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収するものを明示する令状がなければ、侵されない」 (同第35条第1項)と規定し、すべての人の住居等に対する公権力による不当な干渉を禁止している。また、刑法は、故なく住居等に侵入することを禁止し(同法第130 条)、軽犯罪法は、正当な理由なしに他人の住居等をのぞき見ることを禁止(同法第1条第23号)している。更に、医師、弁護士、 業務上他人の秘密を知りうる職にあるものについては、各種法律において秘密保持等の義務(刑法第134条、刑事訴訟法第149 条、民事訴訟法第281条第1項第2号)が課せられ、個人の私生活の平穏に対する配慮が払われているほか、国家公務員及び地方公
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務員にも守秘義務が課せられている。 (国家公務員法第100条、 地方公務員法第34条)
また、電波法、有線電気通信法、電気通信事業法により通信の秘密及び個人情報が保護されている。
2. 行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律の概要
近年の個人情報の電子計算機による処理の進展に対応し、個人の権利利益を保護するため、 「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」が施行された。 (1989年 10月)
行政機関は、各種の資格保有者、年金受給者等の様々な個人情報を記録した個人情報ファイルを保有している。同法の規定により、 個人情報ファイルの保有口的、記録項目等は、各行政機関が作成する個人情報ファイル簿や総務庁の官報公示によって、国民に明らかにされている。個人情報ファイル簿に掲載されている個人情報ファイルについては、何人にも自己に関する情報の開示請求権が認められ、誤った個人情報について訂正等の申し出があったときには、行政機関は必要な調査を行い、その結果を本人に通知する。行政機関には、個人情報ファイルの保有制限、個人情報の安全・正確性確保の努力義務が課せられており、また、原則として、個人情報ファイルに記録されている個人情報を個人情報ファイルの保有目的以外の目的に利用又は提供することが禁止されている。
3. 名誉・信用の保護については以下のとおり。
(a) 刑法は、人の名誉を段損すること及び人を侮辱することを処罰
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の対象とし、死者の名誉についても、証岡することを処罰の対象としている(同法第230条)
(b) 人の信用を段損することは、刑法で処罰の対象とされている (同法第233、第231条)
(c) 更に、個人の名誉・信用が、段損された場合、その損害については、精神的損害に対する賠償(民法第710条)として救済を受けうる他、原状回復を求めうる(同法第723条)
4・ なお、近時、 「プライバシー権」の名において、肖像権、及び人の名誉・信用に係る過去をみだりに知られない権利等が法的保護の対象とされつつある。これらの権利は、判例上、憲法第13条により保障される人権として認められる。
(a) 「肖像権」を認めた初めての最高裁の判例。 (19 69. 12)
「憲法13条は‘・・・・・国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由のーつとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぽう・姿態(以下 「容ぼう等」という)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぽう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない」
(b) 近年の下級審裁判としては、写真週刊誌による個人の私生活・顔写真の無断掲載がプライバシー又は肖像権侵害に当たるとして民事訴訟(損害賠償請求、謝罪広告請求)となった事例がある。
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第18条
1. 第1回及び第2回報告で述べたとおり、憲法第19条、第20 条、及び第21条第1項が、思想・良心の自由、信教の自由及び表現の自由を規定し、また、同第14条が、思想・信条による差別を禁じており、本条の内容は確保されている。
2. 特に、本条2については、憲法第20条第2項が、 「何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない」 と規定している他、同条第1項及び第3項等が国家の非宗教性を規定し、国及びその機関による宗教的活動を禁止している。
3一 なお、教育基本法第9条第1項において、 「宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない」と規定しており、私立学校による宗教教育や家庭における宗教教育が認められている。
第19条
本条については、第1回及び第2回報告で述べたとおり、意見を持つ権利、表現の自由は保障され、民主主義の維持に不可欠のものとして最大限尊重されている。表現の自由の制限は、第2回報告で述べたとおり限定される。
第20条
1. 本条1については、我が国は、国民の間に戦争に対する極めて強い否定的感情が存在しており、戦争宣伝が実際に行われることがほとんど考えられないとの状況にあることは、第1回及び第2回報告の通りである。右事情は前回審査以降変っておらず、将来仮に、 戦争宣伝行為による弊害の危険性が生じることとなれば、必要に
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応じ、表現の自由に十分配慮しつつ立法措置を検討することとなろう。
2. 本条2についても、第1回及び第2回報告の通り、現行法制により規制しえない具体的な弊害が生じる場合には、公共の福祉を害しない限度において表現の自由に十分配慮しつつ、さらに立法措置を検討することとしている。
第21条
第1回及び第2回報告で述べたとおり、本条に規定された権利は、 憲法第2 1条第1項により保障されており、 また、右権利に対する制限(破壊活動防止法第5条及び伝染病予防法第19条第1項第3号等)も、本条に合致した必要最少限のものとなっている。
第22条
1. 本条に規定する権利については、第1回報告で述べたとおり、憲法第21条第1項、第28条のほか、労働組合法、国営企業労働関係法等の国内法により保障されている。
2, なお、本条に規定する権利については、上記国内法令による保障に加え、我が国は、 ILOの強制労働に関する条約(第29号)、 団結権及び団体交渉権条約(第98号)及び結社の自由及び団結権の保護条約(第87号)をそれぞれ1932年、 1953年及び 1965年に締結し、誠実に遵守しているところであり、本規約第 22条3に言及された義務の履行も確保されている。
3. 政治資金規正法の概要
政党その他の政治団体は、その名称、代表者の氏名等一定の届出義務があり、その届出を行わない政治団体は、政治活動のために寄
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附を受け又は支出をしてはならないとして、政治資金規正法は、政治団体を設立した場合に届出をする義務を課しているが、政治活動を行う団体を設立又は組織すること自体を規制するものではなく、 事後的に自治大臣又は都道府県選挙管理委員会(以下「行政機関」 という。)に届け出ることを規定しているものである。
届出を受けた行政機関は、届け出られた事項について公表しなければならないが、その内容は、政治団体の所在地、代表者の氏名等最小限の情報に限定されており、結社の自由に十分に配慮している。
政治資金規正法は、政治活動の態様について特段の規制をしていない。ただ、政治活動に関する寄附(政治団体に対してされる寄附又は政治家の政治活動に関してされる寄附)については、一寄附者が寄附することのできる金額についての制限及び特定の者からの寄附等に関する規制がある。
また、政党その他の政治団体及び一定の政治家個人は、その政治資金の収支について報告し、公開しなければならない。
これらの規制を課しているのは、政治資金の収支の状況を国民に公表することにより、その政治活動が国民の監視と批判の下に行われるようにするとともに、これらの規制により政治活動の公正と公明を確保し、もって民主政治の健全な発達に寄与することを目的としているものである。
4. 労働組合員の数、及び組織率。
19 9 0年の日本における労働組合数(単位労働組合)は 72, 202組合、労働組合員数(単ー労働組合)は12, 265
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千人。雇用者に占める労働組合員数の割合(推定組織率)は 25. 2%である。
[参考]
労働組合数、労働組合員数及び推定組織率
年 労 働 労 働 雇用者数 推 定
組合数 組合員数 組織率
千人 万人 %
1990年 33,270 12, 255 4,875 25. 2
(72, 202) (12, 193)
|
資料出所 労働省「労働組合基礎調査」 (1990年B月末日現在)
(注)(1) 労働組合数、労働組合員数は、単一労働組合である。
( )内は、単位労働組合数及び組合員数である。
(2) 雇用者数は、総務庁統計局「労働力調査」 1990年B月分
による。
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第23条
婚姻及び家族については、国民生活の基本秩序に重要なかかわり合いを有するものとして、憲法(第24条)及び民法により、個人の尊厳と両性の本質的平等の原則に立脚して保護されている。婚姻中の財産制、財産分与及び子の監護・教育等に関しては民法が定めている。 これらの詳細は第2回報告で述べたとおりである。
なお、婚姻が解消された後の母子家庭については、児童の健全育成の観点から児童扶養手当の支給等の措置がとられている。 (児童扶養手当法)
また、夫婦別姓問題など各方面から種々の問題提起をされている民法の婚姻及び離婚に関する規定全般について、国の審議会においてその見直し作業に着手することになった。
第24条
1. 本条1に言及されている権利については、憲法第14条の法の下の平等の定めにより、児童に限らず、すべて国民は、人種、信条、 性別、社会的身分又は門地による差別なく、個人としてその人権をあまねく保障されている。特に、児童の権利については、同第27 条第3項は児童の酷使を禁止し、また、同第26条は、すべて国民は、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負うとし、更に、義務教育の無償制度を保障している。
本条1に言及される家族、社会、国家を通じた児童の権利の保障に関し、第2回報告に対する補足説明も含め、我が国でとられている措置の概略は次の通り。
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A.福祉面
(a) 児童福祉法は「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」 (同法第 2条)との基本的考え方をかかげている。
(b) 家族の保護、児童の養育のための諸手当の支給(児童手当法、児童扶養手当法、児童福祉法等)
(C) 母性の保護のための諸措置(母子保健法、児童福祉法、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律、労働基準法、健康保険法、母子及び寡婦福祉法等)
(d) 児童の監護のための特別措置(少年法: 非行少年及び犯罪少年に対する特別措置、児童福祉法: 児童の福祉措置、保障並びに関連施設の設置等)
(e) 搾取、遺棄及び虐待等からの児童の保護(刑法、労働基準法、児童福祉法)
(f)児童及び年少者の労働の規制(労働基準法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等)
(g) 心身障害を有する児童に対する障害の状態に応じた適切な措置及び指導(心身障害者対策基本法、児童福祉法)
ft) 児童売春を撲滅するための対策
我が国の現在の少年を取り巻く環境をみると、性に対する国民意識の変化による性倫理の低下と社会一般に見られる享楽的風潮を背景とした、性を売り物とする産業等の増加及びー部のマス・メディアにおける性に関する情報の氾濫が顕著であり、
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少年の性意識への影響が大いに憂慮されるところである。
また、暴力団がその勢力の維持、拡大のために、少年に対してさまざまな形態でアプローチをして巧妙に組織の活動へ取り込んでいるとともに、売春関係事犯に介入して有力な資金源としている実態が認められる。
このような情勢を背景として、少年の性非行及び少年の福祉を害する犯罪が横行するに至り、これが少女売春を惹起しているのである。
警察は、諸種の少年非行防止、健全育成のための活動を通じて、少女売春を撲滅するための対策を講じているところである。
(1) 警察では、日頃から少年係の警察官、婦人補導員等を中心に、盛り場、公園等非行の行われやすい場所で街頭補導を実施しており、そうした地域を俳個する少年が売春事犯の被害者とならないよう努めているところである。平成2年に性の逸脱行為で補導した女子は4, 902人である。
(2) 最近の少年の福祉を害する犯罪(以下「福祉犯」という。)の傾向をみると、享楽的な社会風潮を背景として、 風俗営業にかかる事犯が目立っているが、これらの犯罪は、 少女に売春をさせたりする等により少年の心身に有害な影響を及ぼし、少年の健全な育成を著しく阻害するものであることから、警察では、その積極的な取締り、被害少年の発見保護に努めている。平成2年における福祉犯の検挙人員は 1 0, 653人で、うち売春事犯は7, 021人にのぽり約
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SBパーセントを占めている。
(3) 警察では、少年の非行、家出、自殺等の未然防止及びその兆候の早期発見に資するために、少年相談の窓口を設け、少
年、保護者等からの相談に対して、心理学等に関する知識を有する専門職員や経験豊かな少年係の警察官、婦人補導員が必要な指導や助言を行っており、安易に売春に奔ることのないよう少年自身に教唆するとともに、保護者等にも協力を要請するなどして少女売春の防止を図っているところである。 また、都道府県警察では、電話による相談業務を行っている。平成2年に警察が受理した少年自身からの少年相談の件数は31, 328件で、うち性に関するものは5, 288件である。
(4) 警察では、家庭,学校、地域社会等との連携の下、社会奉仕活動、生産体験活動等の少年の社会参加活動やスポーツ活動を行う他、非行防止のための教室や座談会を開催するなど、少年が自らを律して売春に身を投じることがないような規範意識の確立及び向上を図る活動を推進している。
また、警察では、関係機関と連携して、少年に対し性に関する誤った知識を植えつけ売春を誘発するおそれがある等の少年に有害な図書等について、少年が購入あるいは閲覧しないようにするための対策を講ずるとともに、出版関係業界に対し、販売方法や出版図書の内容の見直し等自主規制の徹底を要請する他、地域住民や民間ボランティアと協力して非行を誘発し売春の温床となる環境を除去するための活動を推進
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している。
(1) 我が国では、学校教育において教師が児童生徒に体罰を加えることは、法律により禁止されている(学校教育法第11 条)。しかしながら、実際の学校現場では、教師による体罰が行われているケースがみられる。
このため、政府はこれまで体罰の禁止について都道府県教育委員会等に対し指導通知を発出するとともに、各種会議での指導や個別の事案に関する具体的な指導等、体罰禁止の趣旨の徹底について指導の充実に努めている。
法務省の人権擁護機関(第2回報告書別添1参照)は「体罰」について、関係者からの「申告」や新聞・雑誌等から「情報」を得た場合、その申告や情報の内容を検討し、人権侵犯の疑いのある事案を人権侵犯事件として受理し、受理した事件については体罰を加えた教師や監督者である校長等関係者から事情聴取する等して、事実の調査を行い、この調査結果に基づいて体罰を加えた教師や校長に対し、児童生徒の基本的人権を擁護するという立場から啓発を行い、再び体罰を繰り返さないよう説諭(「説示」)し、また、学校に体罰を容認する体質がある場合には、必要に応じ、校長や教育委員会に対して再発防止のための適切な方策をとるよう「勧告」や「要望」をする等の措置をとっている。
人権擁護機関が受理した体罰事件の件数は1987年146 件、 1988年133件、 1989年113件、 1990年 122件である。
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B.教育面
教育基本法は、 「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底」することを使命として(同法前文)おり、諸法令において次のような規定がおかれている。 (a) 教育の機会均等(教育基本法第3条)
(b) 9年間の普通教育の義務教育制及びその間の国公立学校での授業料免除(教育基本法第4条、学校教育法第S条、第22 条、第39条)
(c) 社会教育の奨励(教育基本法第7条、社会教育法第3条)
(d) 経済的理由により就学困難な学齢児童の保護者への援助給付 (学校教育法第25条、第40条等)
(e) 心身に障害を有する者に対する障害の状態に応じた教育(学校教育法第22条、第39条、第74条等)
2. 本条2に関しては、全て子は、場合に応じ父母あるいは父または母の氏を称し(民法第790条)、出生届により命名の効力を生じ、父母あるいは父又は母の戸籍に入る(戸籍法第18条)
3. 本条3が規定する児童の国籍取得については、国籍法第2条に右に添った規定が設けられている。
第25条
1. 我が国における本条関係の法的枠組の詳細については第2回報告で述べたとおりであるが、その概要は次のとおり。
憲法は、公務員の選定・罷免は、国民固有の権利である(第15 条第1項)とし、国会両議院の議員の選挙(第43条)、地方公共
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団体の長及びその議会の議員等の選挙(第93条)につき規定し、 かかる選挙の際の成年者による普通選挙・秘密投票の原則を定めている(第15条第3項、同条第4項)
公職選挙法は、国会両議院の議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の選挙方法について具体的に定めており、また、国民の選挙権、被選挙権、投票の秘密を保障している。
2‘ 国又は地方公共団体の公務に従事する職員に関し、国家公務員法 (第33条)及び地方公務員法(第15条)は、能力の実証に基づいて職員の任命を行う旨を規制している。
第26条
1, 憲法第14条第1項は、 「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定し、法の下の平等を保障している。本条に関する法的枠組は、第1回及び第2回報告で述べたとおりであるが、補足的説明は次のとおり。
(a) 憲法第14条第1項は、 「人格の価値がすべての人間について平等であり、人種、宗教、男女の性、職業、社会的身分等の差異に基づいて、あるいは特権を有し、あるいは特別に不利益な待遇を与えてはならないという大原則を示したものである。」 (1964年5月最高裁判例)。この平等原則及び個人の尊厳の尊重は、最も重要な原則として今日大部分の国民の間に広く認識されているが、日常生活・雇用等の面において私人間で依然差別が見られるのも事実である。かかる場合は、当事者は裁判による救済を求めることができるが、 これ以前に差別・人権侵害が生じ
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ない社会を作るよう国民の努力と国民意識の啓発が必要であり、 引続き官民一体の努力が肝要である。
(b) 憲法第14条第1項の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推適用される。 (1964年11月最高裁判例)
(c) 労働面に関し、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由とする賃金、労働時間、その他の労働条件に関する差別的取扱は禁止されている(労働基準法第3条)。また、性を理由とする賃金に関する使用者による差別的取扱は禁止されている(労働基準法第 4条)。
さらに、男女労働者の雇用における均等な機会及び待遇については、男女雇用機会均等法により確保が図られている。
2. 同和問題の現状と課題,
政府は、同和問題は日本国憲法に保障された基本的人権に係る重要な問題であるとの認識のもとに、 1969年以来、 20年余りの間に三度にわたる特別措置法を制定する等重要課題のーつとして関係諸施策の推進に努めてきた。その結果、生活環境の改善を始めとして、同和関係者の住む地区の生活実態の改善、向上が図られ、現在では、同和関係者の住む地区とそれ以外の地域との格差は、平均的に見れば、相当程度是正されてきている。一方、心理的差別についてもその解消が進み、その成果は、全体的には着実な進展を見せているものの、結婚、就職等についての差別事件は根絶されていない。
したがって、人権尊重の立場で粘り強く啓発活動を展開し、差別
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を生み出している心理的土壌を変えていくよう、今後とも創意工夫
をこらし効果的かつ積極的な啓発を展開していく必要がある。
第27条
1. 我が国においては、自己の文化を享有し、自己の宗教を実践し、 又は自己の言語を使用する何人の権利も否定されていない。
本条との関係で提起されたアイヌの人々の問題については、これらの人々は、独自の宗教及び言語を有し、また文化の独自性を保持していること等から本条にいう少数民族であるとして差し支えない。これらの人々は、憲法の下での平等を保障された国民として上記権利の享有を否定されていない。
2. 北海道ウタリ対策
北海道庁は、 1974年以来、 3次にわたり「北海道ウタリ福祉対策」を策定し、教育、文化の振興、生活環境の整備、産業の振興等の施策を総合的に推進し、アイヌの人たちの生活水準の向上を図っている。
日本政府は、北海道庁が進めているウタリ福祉対策に協力し、これを円滑に推進するため、 1974年政府部内に「北海道ウタリ対策関係省庁連絡会議」を設置し、関係行政機関の緊密な連絡のもとにウタリ福祉対策事業関係予算の充実に努めている。
1986年に北海道庁が実施した「北海道ウタリ生活実態調査」 によれば、アイヌの人たちの生活水準は着実に向上しつつあるが、 なお一般道民との格差は是正されたとはいえない状況にある。このため、引続き、 「第3次北海道ウタリ福祉対策」 (1 98 8'-9 5 年)を推進し、アイヌの人たちの生活水準の向上と一般道民との格
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差の是正を図っている。
(なお、 「アイヌ」とはアイヌ語で「人間」を、 「ウタリ」 とは
「同胞」を意味する。)
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別添1
(1) 最高裁判所昭和23. 3. 12大法廷判決
憲法第13条においては、すべての国民は個人として尊重され、 生命に対する国民の権利については、立法その他の国政上最大の尊重を必要とする旨を規定しているが、公共の福祉という基本的原則に反する場合には、生命に対する国民の権利といえども立法上制限ないし剥奪されることを当然予想しているなどとした裁判例
(2) 最高裁判所昭和26. 4. 4大法廷判決
憲法第21条所定の言論、出版その他一切の表現の自由は、公共の福祉に反し得ないことは憲法第12条、第13条の規定上明白である等として、確たる証拠がなかったにもかかわらず会社が人員配置転換を行うに当たり不当不正な施策を行ったことを真実であるかのように宣伝したことを理由とする従業員の懲戒解雇を適法とした裁判例
(3) 最高裁判所昭和29. 11, 24大法廷判決
行列行進又は公衆の集団示威運動は、公共の福祉に反するような不当な目的又は方法によらない限り、本来国民の自由とするところであるが、これらの行動といえども公共の秩序を保持し、又は公共の福祉が著しく侵されることを防止するため、特定の場所又は方法につき、合理的かつ明確な基準の下に許可や届出をさせてこのような場合にはこれを禁止することができる旨の規定を条例に設けても、直ちに憲法の保護する国民の自由を不当に制限するものとは解されないとした裁判例
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(4) 最高裁判所昭和37. 4. 4大法廷判決
風俗営業等取締法第3条に基づく東京都風俗営業等取締法施行条例第22条による営業時間の制限は、善良の風俗を害する行為を誘発する弊害を防止するために必要な措置であり、公共の福祉のために是認されるべきであるとした裁判例
価) 最高裁判所昭和37. 1 0. 24大法廷判決
憲法第22条の保障する営業の自由は公共の福祉の要請がある限り制限され得るとした上で、宅地建物取引業法の一部を改正する法律(昭和32年法律第131号)附則7項、8項が宅地建物取引業者に対し新たに営業保証金の供託義務を課していることは、公共の福祉を維持するための必要な是正措置として是認され、この規制は憲法第22条に違反しないし、業者の人格を無視するものではないから憲法第13条に違反するものではないとした裁判例
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