2015年3月24日火曜日

手続保障としての「裁判を受ける権利」


----
(手続保障としての「裁判を受ける権利」笹田栄司『実効的基本権保障論』1993年 318頁より抜粋)

(手続保障としての「裁判を受ける権理」笹田栄司『実効的基本権保障論』318)
3 公正手続請求権の基礎的内実
憲法32条によって保障される公正手続請求権は、ドイツ憲法第103条の法的聴聞権、及び公正手続請求権の双方を含むものと解される。 そして、「訴訟当事者の自己の見解を表明する権理」、受け身ではない形で、「自己の権理または利益が不法に侵害されているとみとめ」出訴に及ぶ場合、訴訟当事者が裁判手続の単なる客体にとどまることなく裁判手続の過程そして結果に影響を行使しうることを「裁判を受ける権理」は保障しなければならない。手続きの主体としての訴訟当事者は裁判所に対する単なる情報の提供者にとどまることなく、手続過程に能動的にも影響を行使しうるものでなければならないのである。ここでは、ドイツにおける「法的聴聞権」に関する判例・学説が参考になる。第一に訴訟当事者の見解表明権が中心的役割を担う。訴訟当事者は主張そして立証についての十分な機会を持たねばならない。そしてそれが効果的に行使されるためには、裁判手続の始まり、その主要な事実そしてその目下の状態についての十分な情報が前提にされねばならない。即ち、裁判所は訴訟当事者に対する情報提供義務を有するのである。最後に、訴訟当事者によって申し立てられたものが裁判官に顧慮されないならば見解表明権はその異議を失うのであるから、裁判所の考慮義務が裁判を受ける権理の内実に含まれる。

ここでは、手続きの主体としての訴訟当事者の位置づけを裁判を受ける権理が憲法上保証しているという点について述べるにとどまるが、この観点から今後は現行の訴訟手続法そして裁判官による手続形成を吟味する必要がある。即ち、裁判を受ける権理が手続関係人に対し十分な見解表明の機会を保障するとすれば、「聴聞の機会を与える裁判所の日常的実践に一般的な秩序づけの枠組みを設定することを第一に任務とする」手続法は、訴訟当事者に対し、「その方針態度を決する負担を軽減し、救済を準備し、あるいは権理行使の限界を指し示す」ものでなければならない。従って裁判を受ける権理は、そのような訴訟手続法を制定する立法者に向けられると同時に、その手続法に従い手続き形成を行う裁判官にも向けられねばならない。現在の状況では、裁判官による裁量をコントロールするものとしての裁判を受ける権理の意義はとりわけ大きいと思われる。
以上の公正手続請求権の内実に加え、その前提として「裁判所へのアクセス」も公正手続き請求権の保障するところである。「訴訟費用救助」そして「裁判における言語(通訳)」といった問題も裁判を受ける権理にもとづく検討がなされる必要がある。

4
公正手続請求権と裁判官に対する行為規範
(1) 公正手続請求権は、裁判官による手続き形成に際し重要な意義を持つ。裁判官は訴訟法の解釈・適用に際し公正手続請求権をさらに具体化しなければならず、従って、「法規に従って手続きを実施する裁判所側に不当な選択ないし裁量権の行使があり、そのために当事者が不利益を受ける場合に公正な手続きを求める権理が問題になる。」ここで出発点になるのは、連邦憲法裁判所による「裁判官による手続き形成は、民事訴訟の当事者が手続きについて当然に期待して良いレベルのものでなければならない」とするテーゼである。
それはさらに、「裁判官は矛盾した行為を行なってはならず、自己のあるいは自己に帰せられうる瑕疵あるいは遅滞から手続上の不利益を導き出してはならず、そして具体的状況下での手続関係人に対する配慮を一般に義務づけられている」という原則に具体化されている。
1節で述べたように手続きは、「相互運動構造」を有しており、訴訟当事者の行為は他の訴訟当事者そして裁判官の行為に関係づけられるのだから、「民事訴訟の当事者が手続きについて当然期待して良いレベル」が前提とされることが必要である。公正手続請求権はそれを憲法的に確保するものである。もちろん「手続きについて当然期待して良いレベル」とは具体性に乏しいといえるが、しかし、それは手続きの状況はさまざまでありうるからその時々に検討するしかないともいえる。そういった中で、弁護士によって代理されているか、従来の裁判手続の実践から逸脱していないか、訴訟当事者を誤解させるような裁判官の行動が存在しているか等が、その場合の考慮すべき要素として挙げられよう。
(2) 次に以上述べたこととも関係する「裁判官の指摘義務」の憲法的意義についてすこし具体的に検討を加える。
この問題が憲法的に意味を持つのは「不意打ち判決の禁止」の文脈においてであろう。ここで不意打ち判決とは、「”裁判所がその決定に至るまで討論されなかった法的観点をその決定の基礎とし、それでもって、それにより不利益を受ける手続関係人がこの時点までの手続きの経過によれば計算に入れる必要のない方向転換を法律上の争いに与えている場合に”、存すると解されるが、この問題は公正手続請求権の基礎的内実の内、「裁判所の情報提供義務」に関わる。
(中略)
ここでは、「見解決明の機会が、裁判所の一定の態度を当事者が信頼したことによって事実上無に帰しているような場合」について検射を加えたい。第一に、「裁判所が既にある法的見解を開示していた場合に、当事者に告知することなくそれを判決で突然に変更して新たな法律問題を取り上げる」場合、「原審判決の触れていない新たな法律問題を上訴審裁判所が裁量で取り上げる場合」を挙げられ ・・・・・・



0 件のコメント :